東方蒼天葬 弐
□オールレンジVSマルチウェポン
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「何で……私は、負けたんだ?」
控え室の片隅にて、壁に凭れ掛かりながらへたり込み、自問する。
どうして自分は武器も使用していない相手に一撃も入れられなかった?
何で自分は負けなければならない?
自分のどこが弱いというのか?何が間違っているというのか?
それが解らない………。
今までは相手が専用機持ちという事を理由にいくらでも負けの言い訳が出来た。
しかし、今回の鈴音は武装を何一つ使用していない上、機体の基礎スペックもフルに使用していない。
そんな相手に全く歯が立たなかった。
少なくとも自信はあった……。
剣道全国大会優勝という実績、そして父から教わった篠ノ之流の剣を持つ自分ならそこら辺の代表候補にだって接近戦にさえ持ち込めれば勝てると思っていた……。
しかしその結果がこれである。
――アンタにだけは、死んでも負けない!
一夏に依存して、周りの事を何一つ考えない、アンタみたいなガキにだけは絶対に!――
「違う!私は悪くなんかない!!
勝手に変わった、一夏が……一夏を変えたアイツらが……悪いんだ……!」
脳裏に響く鈴音からの糾弾の声。
それに対して箒は頭を振りながら否定するが、その口調と表情は弱々しい。
……この時、篠ノ之箒は僅かに、ほんの僅かではあるが揺らいでいた。
一方、アリーナでは準決勝が開始されていた。
対戦カードは先の戦いで箒に勝利した鈴音、そして二回戦でも快勝を決めて勝ち上がった簪だ。
「…………」
「…………」
既に試合開始からそれ相応の時間が経った頃、
鈴音と簪、それぞれのシールドエネルギー残量は鈴音が37%に対し、簪は43%。
僅かに簪がリードする中、二人は地上で一度距離を取り合って睨み合っている。
(このままじゃジリ貧……なら一か八か!)
端を切るように鈴音は龍咆で牽制しながら簪との距離を詰め、接近して双天牙月による斬撃を繰り出す。
「っ!」
対する簪は夢現で迎え撃ち、鍔迫り合いの体勢に入ろうとするが……。
「甘いわ!」
ココで鈴音は思わぬ行動に走る。
手に持った双天牙月を投げつけたのだ。
(ッ………フェイント!?)
「貰った!シマリス脚!!」
投擲された双天牙月を夢現で防ぐ簪に鈴音は笑みを浮かべ、直後に足に力を入れて一気に地を蹴り、簪に蹴りかかる。
美鈴直伝・心山拳体術の一つ、シマリス脚……その名の通りシマリスの如き俊敏かつ機敏な動きで敵を強襲する跳び蹴りだ。
「クッ!(しまった、夢現が!)」
「取った!」
鈴音の跳び蹴りが夢現を弾き飛ばし、簪に一瞬の隙が生じる。
その隙を見逃さずに鈴音は先の対戦で見せた老狐の舞を決めようと簪の腕を掴み取る。
(操縦技術じゃ私に分が悪い。
なら、相手の身体に直接ダメージを与えてパワーダウンさせてやる!)
掴んだ簪の腕を捻り上げ、一気に勝負を決めるべく鈴音は関節を極めにかかるが……。
「これで!」
「ぐッ……関節技には…………」
しかし、関節を捻られる簪は思いのほか冷静に、尚且つ大胆な行動に出た。
まず足を極められる前に自ら地面を蹴った。
「無理に力任せに外そうとしないで、相手の力が掛かる方向に……身体の動きを、合わせる!」
「え?」
鈴音の口から思わず気の抜けた言葉が出てくる。
簪はISの飛行機能を利用して宙に浮いて腕に掛かる負担を軽くしたのだ。
そしてその行動と、それに対する驚愕から鈴音は思わず手に込めていた力を緩めてしまった。
「そして力が緩んだ所を……振り解く!」
その一瞬の隙を簪は見逃さず、一気に掴まれた腕に力を込めて鈴音の手を振り解いた。
まさに飛行能力を持つISならではの回避方法だ。
そして当然ながら、振り解かれた側の鈴音には大きな隙が生じる。
その隙こそ、この試合の結果を決定付けるものだった。
「しまっ……!」
「喰らえぇぇーーーーっ!!」
「きゃああああああぁぁぁぁぁ!!!」
鈴音が逃げる間もなく展開され、発射される『山嵐』による48発のミサイルの強襲。
その直撃を受けた鈴音の駆る甲龍にシールドエネルギーを残す術は無かった。
『―――――勝者・更識簪!』
簪の山嵐によるフィニッシュが決まった直後、観客席から歓声が上がり、アナウンスが簪の勝利を告げた。
簪の決勝進出が決まった瞬間だった。
「ハァ……負けたぁ〜〜!老狐の舞が破られるなんて……完敗だわ」
「前の試合で見る事が出来たから……それに、生身では絶対破れなかった」
悔しがりながらも納得するような表情を見せる鈴音に簪はフォローを入れる。
勿論慰めなどではなく本心からだ。
老狐の舞を破ることが出来たのはIS戦という土俵があったからこそだ。
地上戦限定の生身での戦いにおいては残念ながら逃げる以外に防ぐ方法を思いつきそうもない。
「ま、今度はISでも振り解けない程強力な技にパワーアップさせてやるわ。
その時はもう一回戦ってよね!」
「うん……!」
お互いに笑みを浮かべあい、二人は再戦の約束を交わしたのだった。
『間もなく、準決勝第2試合、セシリア・オルコットVS五反田弾の試合を開始します』
そして準決勝第2試合。
弾とセシリアは互いに専用機を纏ってアリーナ中央にて対峙する。
「そういえば、お前とガチで戦うのはこれが初めてだよな?」
「ええ。ですが勝負は私が頂きますわ!
ISに関わってきた期間なら私の方が遥かに上、先輩として年季の違いをお見せして差し上げましょう」
「ヘッ!年季なんざ量より質だぜ!
鬼教官二人から直々に扱かれた俺を嘗めるなよ!!」
お互いに軽く挑発し合いつつ身構える。
『試合開始!』
そして響き渡る試合開始。
まず一瞬早くスターライトMk-Vによる射撃で先手を繰り出したのはセシリアだ。
「っ!!」
発射されるレーザーに対し、弾は水泳の飛び込みにも見たフォームで飛び上がって回避する。
「まだ!」
「今だっ!!」
初撃を外しながらも続いて二射目に移るセシリアに弾はメタルブレードを二枚展開して迎え撃つ。
まずは左手に持った一枚を眼前に突き出す。
今の自分の体勢と位置ならセシリアに狙える部位は限られてくる。
故にメタルブレードは盾の役割を果たし、弾はダメージを最小限に抑えることに成功する。
「まさか!?」
思わぬ防御に一瞬驚愕するセシリア。
それはまるで先の対抗戦で魔理沙の攻撃を防いだ一夏を再現したかのような防ぎ方だ。
「貰い!」
そして繰り出される二枚目のメタルブレードによる投擲。
回避しようと後へ飛び退くセシリアだが、ここでも弾は予想を裏切る行動に走る。
メタルブレードがヒットしたのは直接セシリアにではなく、彼女の居た地点の少し手前。
(外した?……違う!)
油断しそうになる頭をすぐに切り替える。
地面に命中したメタルブレードはバウンドしてセシリアに向かって襲い掛かる。
「グッ……!」
間一髪で身を逸らして直撃を避けるセシリアだが、僅かにブレードが掠めてシールドエネルギーが僅かに削られる。
「だぁああーーっ!!」
直後に響く弾の雄叫びとそれに伴うブリッツスピアーによる追撃。
一気に距離を詰められ、観客の殆どが射撃型のブルー・ティアーズの圧倒的不利を予測するが……。
(目には目を、投擲には……投擲!)
即座に近接戦闘用の短剣『インターセプター』を展開したセシリアは、即座にそれを投げナイフの要領で弾目掛けて投げる。
「っ!」
当然ながら、弾は難なく槍で投げられた短剣を弾き返すが、防御に費やす事で生まれたごく僅かなロスタイムをセシリアは見逃さず、槍の攻撃範囲から遠ざかる事に成功した。
「ブルーティアーズ!!」
距離を取ることに成功し、セシリアはブルーティアーズの本領とも言うべき4つのビットを以って反撃に打って出る。
(恐らく弾さんと私の基礎的な身体能力と実力はほぼ五分と五分。
ならば全力で押して圧倒するのみ!この際、出し惜しみはしませんわ!!)
覚悟を極め、セシリアは集中力を高めて4つのビットを操作して弾を狙い撃つ。
「そうそう喰らって、堪るかよ!」
一方で、弾も黙って攻撃を喰らうつもりは毛頭無く、ビットの位置を見極めて飛び交う攻撃を躱し続ける。
「そこ!!」
だが、より磨きの掛かったビットの操作精度を前に、回避は長くは続かず、弾は一瞬の隙を作ってしまい、そこを狙って1機のビットの銃身が弾を狙う。
「何の!」
今まさに繰り出されようとするレーザーを弾は再びメタルブレードによる防御で防ごうとするが……。
(取った!!)
弾が防御の姿勢に入ると同時にセシリアは自身の持てる集中力を最大限に発揮し、脳裏にあるイメージを浮かべる。
それは水面に落ちる一滴の水。ブルー・ティアーズの意味である水の雫である。
一滴の水が水面に波紋を生み出し、水の流れる向きを僅かに変えるそのイメージを浮かべる。
それと同時に放たれたレーザーは弾の手元でメタルブレードを避けるかの様に屈折し、ヒートファンタズムにクリーンヒットした。
「ぐぁっ!……れ、レーザーが、……曲がっただと!?」
弾の驚愕と共に会場内がざわめく。
偏向射撃(フレキシブル)――――ブルー・ティアーズが高稼働状態の時に発動出来るレーザーを屈折させる高等技術。
制度自体はまだ未完の状態であるものの、セシリアはアリスのアドバイスを基に発動させる事に成功していたのだ。
そしてこのクリーンヒットによって弾にはより大きな隙が生まれる。
それこそがまさにセシリアにとって最大の好機だった。
「貰いましたわ!!」
「くっ……!!」
当然セシリアがこの機を逃す筈も無く、4機のビットは一気呵成に弾目掛けてレーザーを乱射した。