東方蒼天葬〜その歪みを正すために〜

□プロローグ
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「ハァ……ハッ……うぅっ……」

 一人の少年が森の中を走っている。いや、走っていたという表現のほうが正しい。
数刻前の事だ、少年は何者かに誘拐された。
ISの世界大会とも言うべきイベント『第2回モンドグロッソ』、その出場者にして前回優勝者、そして少年にとっては唯一の肉親である姉を応援に来た矢先、何者かに背後から薬で眠らされ、気が付いたら何処かの廃倉庫の中で縛られていた。
しかし何の奇跡か、少年は自力で逃げることに成功した。どうやって逃げたかは本人自身覚えていないがそんな事はどうでも良い、ただ助かるために逃げるだけだ。

 追っ手から必死で逃げ回る内に何度か銃弾が体を掠め、一発だけではあるが肩に直撃した。
しかしそれでも少年は逃げ切ったのだ。

(ダメだ……もう、動けない…………俺はどこにいるんだ?近くに森なんて無いはずなのに、変な光が見えたと思ったらいつの間にかこの森にいて……)

 近くの木に寄り掛かりながら少年はようやく現状を確認する事が出来た。
しかし今の少年の怪我ではそれが分かった所で大した意味は無い。
逃げる途中で受けた傷は致命傷ではないにせよ余りにも大きく撃たれた肩口からは今でも血が流れている。

「俺……死ぬのかな……」

 薄れていく意識の中、少年の頭の中にさまざまな思い出が広がっていく。それが走馬灯であると気付くのに大した時間はかからなかった。

「ゴメン……千冬姉……」

 たった一人の肉親である姉の名を呟きながら少年は目を閉じる。
しかしその時だった……。

「おーい、お前大丈夫か?」

 一人の少女が少年に気付き、近寄ってきたのだ。
少女の服装は黒と白を基調とし、頭には童話などで魔女が被っているような三角帽子を被っている。

「お、まだ生きてるな。お前名前は?」

「織斑…一夏」

「私は霧雨魔理沙、普通の魔法使いだ!すぐ手当てしてやるからもうちょっと我慢しとけ!」

 明るくそう言って少女は少年を担ぎ箒に乗って空を飛んだ。
何となくではあるが少年はこれで自分は助かるんだなと感じた。

 少年の名は織斑一夏。
これが後に幻想卿と外界を救う戦士が誕生した瞬間だった。
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