東方蒼天葬〜その歪みを正すために〜

□月の罪人達
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 戦いの終結から数分後、一夏達は負傷した千冬や気絶している鈴仙たちを回収し、客間へ通された。

「それじゃあ聞かせてもらうぜ、異変を起こした理由をな」

「仕方ないわね。一応負けたわけだし……良いわね永琳」

 輝夜から目配せを受け、溜息を吐きつつも永琳は頷き了承する。

「まず、もう察しはついていると思うけど私達は月の民よ。追放されたけどね」



時をは外界で言う(大体)平安時代に遡る
カグヤ(月における輝夜の本名)は月の民の一族であり、月の姫として生まれ、何一つ不自由の無い生活を送っていた。
しかしある時、カグヤは興味本位から不老不死の禁断の秘薬に手を出し、蓬莱の薬を従者である永琳に作らせ、それを飲んで不老不死の身体となった。

その事はすぐにばれてしまい、カグヤは罪人として裁かれる。
だが、不老不死となったカグヤでは処刑することも出来ない。
その結果、カグヤは地上へ追放という形で罰を受け、地上に落とされた。
地上に落とされた直後、一組の老夫婦に拾われ、老夫婦の娘として暮らす事になった(この時に現在の名前である輝夜という名を得た)。


暫らくの間、何の老夫婦とともに平和な生活が送ってきた輝夜だったが、地上人にはない魅力を持つ輝夜に魅せられ、複数の男性から求婚されるようになる。
しかしその男達は皆、輝夜の出した難題に失敗し、輝夜の下を去っていった。



「ちょっと待て!それまるっきり『竹取物語』ではないか!?」

 余りにも聞き覚えのありすぎる話に千冬は思わず突っ込みを入れる。

「ああ、確か外界でそんな風に名づけられて本にもなってたわね。姫の事」

「あら、そうなの?知らなかったわ」

 真顔で答える永琳と輝夜。

「千冬姉……言いたい事は解るけど抑えて。幻想郷に常識は通用しないから」

 思わず突っ込んでしまった千冬を一夏は宥める。

「いや、それは分かっているが……流石に童話が本当の事だったというのは……」

「実話よ、900年ぐらい前までは実話として語られてたんだし。私も実際にそう聞いてたし」

 フォローを入れたのは幽々子だった。

「そ、そうなのか……スマン。(実際に聞いてたって……コイツ何歳だ?)」

 竹取物語とは別の疑問が生まれ、千冬はそっちの方が気になってしまい、一夏に小声で訊ねる。

(確か1000から1100ぐらいだったと思う。前の宴会の時そんな事言ってたから……ってか歳は気にしないでいいと思うよ。種族とか違うし、それ言ったらレミリアだって500歳以上だし)

(そうか……私もまだまだだな)

「話を戻していいかしら?」

「ああ、スマン」

 話が逸れてしまったのでそろそろ戻したいと輝夜は話題を切り替える。



話は戻り、それから数年後、やがて輝夜の罪も償われたとみなされ、月に帰る時が来た。
しかし、自分を育ててくれた老夫婦への情は捨てきれず、輝夜は月に帰りたくなかった。
反面地上では生活しにくい部分もあり、どうすればいいか思い悩んでいた時、月からやってきた使者の中に見覚えのある姿を見た。それが永琳だった。
永琳は薬を自分が作ったが為に輝夜は罪を受けたにも拘らず自分だけ無罪になってしまった為、輝夜に対し後ろめたい思いがあり。輝夜の助けになりたいと考えていた。

永琳は自分と共に地上に降りた月の使者達を裏切って殺し、輝夜と共に逃げ出し、二人は人里離れた山奥でひっそりと隠れて暮らす様になった。


それから、本当に長月が経ち、現時点から約数十年後。
この時点で幻想郷が人間界と遮断されてから、約百年が経った頃。
一匹の妖怪兎が幻想郷に現れた。
その兎こそが千冬の戦った月の兎、レイセン……現在の鈴仙・優曇華院・イナバである。
彼女は元々月の戦闘部隊に所属していたが月と地上が戦争状態となったため月を脱走して幻想郷に逃げ込んできたのだ。

戦争云々については半信半疑だったものの、輝夜と永琳はレイセンを家に匿い、鈴仙は永遠亭の住人となった。


そしてさらに数十年……つまり現在。
とある満月の夜、月の兎同士が使うという兎の波動を鈴仙が受信した。
その内容は彼女達にとって非常に重大なものだった。

受信した内容によると、ある地上人が月の魔力を搾取し、月に基地を作ると言い出した。それも再三にわたる協議も無視される形でだ。
これにより月の民は、その地上人に最後の全面戦争を仕掛ける事となった。

つまりメッセージの内容は鈴仙に月に戻り共に戦うように要請するものだった。
さらに次の満月の夜に月の使者は鈴仙を迎えに来ると言う。

そして輝夜と永琳も月の民、その上罪人だ。月の使者が来ればどうなるか分かったものではない。

丁度その頃、隠れて暮らす事に飽きていた輝夜はこれを機に月の使者を追っ払い堂々と地上で暮らす為、永琳の提案で月を隠し、偽物の月とすり替えたのだ。

地上から満月を無くせば月と地上は行き来できなくなる。地上から見える満月は、月と地上を行き来する唯一の鍵なのだから……。



「……まぁ、こんな所ね」

 長い回想が終わり輝夜は「ふぅ……」と一息吐く。
一方で一夏は神妙な面持ちで照屋達を見つめ、やがて口を開いた。

「一つ聞きたいんだが、その月の民ってのは博麗大結界を破壊できるほど強いのか?」

 一夏は話の中で生まれたもっともな疑問を問うが……。

「「「……博麗大結界って、何?」」」

 輝夜立ちの口から出た返答は場の空気を凍らせるには十分なものだった。

「は?……まさか、お前ら」

「博麗大結界……知らないの?」

「幽々子さん、ぶっちゃけ結界は月の民に破壊されますか?」

「無理ね、っていうか結界自体気付かれるものじゃないし」

 幽々子以外愕然とした表情でそれぞれの反応を見せる。
ちなみに上記の台詞は上から千冬、妖夢、一夏、幽々子である。
一方で輝夜、永琳、鈴仙の三人は話がつかめないといった表情をしている。

「まぁ、とりあえず結界について説明してあげたら?」

「「わ、分かった(分かりました)」」

 一夏と妖夢は肩を落としながら輝夜達に説明した。
幻想郷は閉ざされた空間。元々、月からも入ってくる事なんて出来ないと……。

「……な、何それ?」

「つまり……私達が苦労してやったこれまでの事は」

「全部……無駄」

 自分達で引き起こしたとはいえ、デカイ異変の割に余りにアホらしい結末に輝夜達はその場にへたり込んだ。

(へたり込みたいのはこっちだ……あ〜あ、せっかく一夏が私のために香霖堂から貰ってきてくれた剣が……こんな間抜けな結末のために……トホホ)

 異変調査組の中で最も損害の大きい(剣をぶっ壊された)千冬は内心凹んでいた。

「はぁ〜〜、止めだ止め!こんな事でいちいち落ち込んでたらキリが無いぜ。酒でも飲んで気分転換しようぜ!」

 溜息を吐きつつも場の空気を変えようと一夏は声を上げる。

「良いわね。一応異変も解決したわけだし」

「お前らも付き合えよ、事の発端なんだから」

「そうね。結果的にはこれで堂々と地上で暮らす事が出来るんだし、その祝宴っていうのも良いかもね」

 輝夜は穏やかな笑みを浮かべながら承諾し、数分後には永遠亭の庭は宴会の会場となるのであった。





 幻想郷において宴会は人妖問わず惹きつける。
異変解決から一時間もした頃には宴会場には多くの者達が集まっていた。

「んぐっ、んぐっ……くはっーー!美味ぇ!!」

 杯に注がれた酒を一気に飲み干して一夏は満足そうに笑う。

「一夏……お前、私より相当飲むんだな。というか未成年だろお前は」

「幻想郷にお酒は二十歳からなんてルールは無いんだよ千冬姉」

 呆れ半分驚き半分で千冬は一夏の飲みっぷりを眺めている。


「にしても私の知らない所で異変が起きていたなんてね」

「霊夢、お前は異変の間何してたんだ?」

 紅白の巫女服に髪をポニーテールに纏めた幻想郷の巫女、博麗霊夢に魔理沙は訪ねる。

「……寝てた」

「巫女がそれで良いのか?」

「何よぉ、アンタだって何もしてないでしょ」

 霊夢と魔理沙は低レベルな言い争いを繰り広げる。


「ど、どうしたの輝夜……その程度?私はまだまだいけるわよ」

「冗談……も、妹紅、アナタだって飲む速度が落ちてるんじゃないの?」

 輝夜は個人的に因縁のある藤原妹紅と飲み比べで対戦している。


「い、一夏さん……お酒、もう一杯お注ぎしましょうか?」

「そろそろ日本酒よりもワインが恋しくなってきた頃じゃないの?一夏」

「……咲夜さん、いきなり味を変えるのは如何なものでは?(何横槍入れようとしてんのよ!?吸血鬼の犬め!!)」

「……あら?同じ飲み物ばかりじゃ流石に飽きると私は思うんだけど?(半人半霊は引っ込んでなさい……!)」

 妖夢と咲夜は互いに火花を散らしあっている。
もちろんこんな女の戦いを千冬が何もせずに静観している訳ではではない。

「一夏、お前の酒、私の飲んでいる物とは違うな。一口良いか」

「ん?良いよ」

「そうか、それじゃ……」

 千冬は一夏の杯を受け取ってそれに入っている酒を飲む。当然飲み口は一夏が口を付けた場所に合わせてだ。
所謂間接キスである。

((……し、しまった!!まさかそんな手を!?))

(フッ……甘いな小娘供が)

 そして千冬はドヤ顔で二人を見ながら笑みを浮かべた。
なお、千冬は二人の事を小娘と称しているが咲夜はともかく妖夢は千冬より年上だったりする(半人半霊のため寿命が人間より長い)。
結局この後三人は一夏の知らない所で火花を散らし続けるのであった。



なお、余談ではあるがこの異変から数日後、鈴仙は『月を侵略しようとしているという地上人が侵略に失敗し、撤退した』という情報をキャッチしたらしい。
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