東方蒼天葬 弐

□封印された大魔法使い
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「ぬぁああ!!」

「墳っ!!」

 そして一際大きい衝撃音と共に二人の身体が反発する磁石のように離れる。

「く……こんな事が」

 苦虫を噛み潰したような表情で千冬は愛用の大剣を見つめる。

「ああっ!?け、剣が!」

「今のは正直驚きました。まともに受けていれば無事では済まなかったでしょう。……アナタ達は強い、そして才能も十二分にあります。……だけど今のアナタ達では私に勝つ事は出来ない。基礎的な技量と経験が違いすぎるのです。……降参してもらえませんか?」

 千冬に代わって早苗が声を上げる。
大剣は刃先がボロボロに刃毀れして中心から根元近くまで罅(ひび)が入り、最早使い物にならないのは火を見るより明らかだ。
そんな愕然とする二人に追い討ちを掛けるように白蓮は断言する。

「クッ……まだです!《奇跡『海が割れる日』!!》」

 白蓮の言葉を跳ね除けるように早苗がスペルを発動させる。

「あくまで最後まで諦めないのですね。その見事な意気に報いる為、私も本気を出しましょう「《超人『聖白蓮』!!》」

 スペル発動と同時に白蓮の身体が発光し、白蓮は自ら早苗の霊力の津波に飛び込み、そして突き破った。

「う、嘘!?」

「覇ぁっ!!」

「ガハァァッ!!」

 驚き硬直する早苗の身体に穿たれる白蓮の蹴り。
魔力で強化された肉体の生み出す驚異的なパワーとスピードは早苗に防御することを許さず、早苗は為す術無く吹っ飛ばされ、聖蓮船の船体に叩きつけられた。

「早苗!クソ!!」

「甘い!」

 魔力で剣を生成し、千冬は白蓮に切りかかるがいとも簡単に剣は白刃取りで受け止められてそのままへし折られてしまった。
そしてそのまま白蓮の掌底が千冬の胸板に叩き込まれた。

「うぐぁぁっ!!」

 早苗の二の舞となり、千冬も船体に叩きつけられてしまう。

(く、クソ……私ではどう足掻いても無理なのか?)

 自身の不甲斐無さに千冬は唇を噛み締める。
思い起こせば今まで自分が関わってきた異変での自分の戦果はどれもこれも中途半端なものばかりだった。
永夜異変では鈴仙と戦い、追い詰めはしたものの結局は敗北。
大結界異変では咲夜と妖夢を相手に不毛な争いを演じただけ。
守矢神社の一件については土人形相手に勝利したがこれを戦果と呼ぶには微妙だ

逆に弟の一夏は霊夢、魔理沙と並んで異変解決のエキスパートと呼べるほどの実力者だ。
悔しくないと言えば正直嘘になる。
女として守られるのを嬉しく誇らしいと感じる。しかし弟に頼りきりなのは姉としてとても悔しかった。

「このままで、終われるか……」

「ッ…まだ立ち上がって?」

「こんな様にもならん負け方をしたとあっては一夏の姉として、格好がつかないだろうが!!」

 気力と執念で千冬は立ち上がり、白蓮を睨みつける。
そして立ち上がったのは千冬だけではない。

「私だって、異変の一つも解決できなければ風祝としても一夏君の恋人候補にも相応しくないじゃないですか!!」

 好戦的に笑みを浮かべながら早苗も立ち上がる。

(何て執念……これ程の精神力を持つ人が現世に存在するなんて)

 目の前に居る二人の精神力に驚き、感服する白蓮。やがて彼女は覚悟を決めたように表情を引き締める。

「アナタ方の執念は分かりました。ですが私も私を復活させてくれた星達の想いに応えるため、負けるわけにはいかないのです。……次で決めます!」

 己の魔力の殆どを攻撃に回し、白蓮は最後のスペルカードを取り出し、そして発動させた。

「《飛鉢『フライングファンタスティカ』!!》」

 白蓮の背後に現れる羽のような魔方陣から放たれる弾幕が円状に吹き荒れる。
だがしかし、その凄まじい弾幕を前にしても千冬は動かず、自身の左手にありったけの魔力を込める。

「これが私の最後(ラスト)の(・)切札(スペル)だ!!《消符『ゼロブレイク』!!!!》」

 千冬の左手から放たれる魔理沙のファイナルマスタースパークすら超える極大の魔力のレーザーが白蓮の弾幕を消し飛ばし、白蓮を飲み込もうとする。

(……こ、コレは受け止め、いや無理!)

 通常これ程の攻撃を前にすれば人間は多少なりともパニックを起こし、身体は言う事を聞かずにその場に硬直してしまうものである。
だが、白蓮は違った本能で受け止めることが不可能だと察し、白蓮は即座にレーザーの射程範囲外に逃れたのだ。

「は、外した……」

「そのまま続けて!!」

 絶望の色を表情に浮かべる千冬を早苗が一喝する。
早苗の姿はゼロブレイクの射線上にあった。そしてその身体には専用機『非想天則』が纏われている。

(いくらISといえど千冬さんのラストスペルを防ぎきる事は出来ない。だけど私の霊力と能力(ちから)を使えば……!!)

 覚悟を決めてオンバシラを展開し、早苗は千冬同様ありったけの霊力をオンバシラに込める。

「弾き返せ!オンバシラ!!」

 強化されたオンバシラが高速回転し、千冬のゼロブレイクを弾き返した。
通常弾き返したレーザーを白蓮ほどの実力者に命中させるのは限りなくゼロに近い。それこそ奇跡的な確立だ。
だが、早苗の持つ『奇跡を起こす程度の能力』と併用させればそれは決して不可能な事ではない。

「そ、そんな事が……アァァァァッッ!!」

 千冬の執念と早苗の奇跡の一撃に白蓮は遂にレーザーに飲み込まれた。

「ハァ、ハァ……や、やった……コレで、私も…少し、は」

 自身が放った一撃が白蓮に命中したのを確認すると同時に魔力を使い果たした千冬は甲板の上に倒れ込んで気を失う。
一方で早苗もまた霊力を使い果たし、フラフラの状態で収束しつつあるレーザーの光を見つめる。

「……ぅ…ぁ」

「……よかった。間違いなく、伸びてる」

 白蓮の気絶を確認し終え、早苗は何とか白蓮を担ぎ上げて 甲板に着地した。

(こういう時、パワードスーツって便利よね。……私も疲れちゃった。少し、休もう……後の事は、それから考えれば、良…いし)

 激闘を終え、3人の女は川の字に並んで静かに目を閉じている。
その表情は千冬と早苗は勿論の事、敗れた白蓮も穏やかなものだった。
この後、救出に来た一夏達に回収され、星を含んだ全員が永遠亭で治療を受けるのはコレから約15分後の事である。
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