東方蒼天葬 弐
□計画と妖獣と陰謀と
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そして場所は再び永遠亭。
一夏達は漸く早苗と白蓮を落ち着かせていた。
「ぜぇ、ぜぇ……二人とも、落ち着いたか」
「「はい。……すいませんでした」」
息切れしながらも割りと凄い剣幕になりつつある一夏の言葉に二人はしっかりと頭を下げて謝罪した。
「……でも、本当にそっくりですね」
一夏を見ながら星が呟く。
「そんなに似ているのか?」
「ええ、昔死んだ弟にとても……」
一夏の疑問に白蓮は感慨深く答える。目尻にはまだ涙の跡が残っている。
「あったよー、例の似顔絵」
ナズーリンが一枚の紙を手に持った状態で室内に入り、それを一夏達に見せる。
「……うわっ!?そっくりだぜ!」
開口一番に魔理沙は驚きの声を上げる。
他の者も一夏と似顔絵を見比べては驚き、白蓮や星たちの反応に納得する。
「マジかよ……コレ、俺じゃなくて本当に他人の空似?」
「これは間違えても仕方ないかも……」
紙に描かれている命蓮の似顔絵は一夏と瓜二つ……それこそ双子と呼んでも差し支えない程にそっくりだった。
「ええ、先程アナタの顔を初めて見た時、本気で命蓮が生き返ったと思ってしまいました」
一夏から似顔絵を受け取った白蓮は悲しげな表情を浮かべながら星達に似顔絵を大事に保管するよう命じて一夏達に向き直る。
「……それで、本題だけど、お前等はこれからどうするつもりなんだ?」
「ええ、やはり私達の目的は人と妖怪の平等な共存です。だけど、あなた達を見て今のこの世界(幻想郷)は魔法などが私が封印された頃よりも受け入れられているようですし……」
「それじゃあ、一度幻想郷を見て、それからゆっくり決めたらどう?私も態々封印しなおすとか面倒だし、第一悪人でもない連中を封印するのは流石に夢見が悪いし」
霊夢からの提案に白蓮は穏やかな笑顔で頷き、承諾の意を示した。
そしてそれは対話が思いの外穏便に済んだ事を示していた。
「あ、あのさ。一つお願いがあるんだけど、良いかしら?」
白蓮との会話が(思った以上に早く)一区切り付いた直後、一輪が口を開いた。
「そこの巫女と魔法使いにはもう言ったんだけど、エリザ……今、別の部屋で治療を受けてる私の眷属の人間なんだけどさ、彼女外界の出身で向こうの方に娘を置いてきてるのよ。あなた達が外界の方で活動してるって言うならエリザを娘さんに会わせてやってくれないかしら?」
一輪は深々と頭を下げて一夏達に懇願する。
「ゴメン、面倒掛けると思うけどお願いするわ。エリザは態々私達に付き合ってくれたのよ。地底から開放されればすぐにでも変える方法を探す事も出来たのに……」
「それぐらいお安い御用だぜ。なぁ、一夏?」
「ああ、仕事は増やしてしまうけどな」
魔理沙は気風の良い笑みを浮かべて一輪の頼みを快諾し、一夏もそれに苦笑しながらも賛同した。
「ありがとう。恩に着るわ」
一輪はより一層深く頭を下げて感謝する。
一輪だけではない、雲山や村紗、星達も同様に一夏達に感謝の意を示したのだった。
「それで、その娘さんの名前と出身地は?」
「確か、場所はフランスで、名前は…………」
「紫様、ただいま戻りました」
「おかえりなさい。……で、首尾はどうだった?」
河城重工の社長室にて、帰還した藍を紫は出迎え、商談と調査の結果を確認する。
河城重工ではISの操縦スーツだけでなく、ISの武装(主にビーム兵器)の設計、開発もしており、それを各企業に売却する事で利益を得ているのだ。
(ただし、売却する兵器の設計図は試作機などが殆どであり、一夏達の専用機には最新式を使用している)
「はい、日本の倉持技研、イギリスの○○社、オーストラリアの○○重工との商談は成立。しかし、案の定と言いますか、女尊男卑が激しい企業の殆どは断固として此方からの商談を拒否しています。特に、フランスのデュノア社はそれが顕著ですね」
報告書を紫に手渡し、若干呆れ顔になりながら藍は話を続ける。
フランスのデュノア社はIS業界では上位にランクする企業ではあるものの、近年ではかつての勢いは全く無くなり、国が主導するイグニッションプランからも落選した落ち目企業だ。
最早現状の所有技術で建て直しは見込めないだろう。
そんな企業が今までに無かった新たな技術(ビーム兵器)の買取を拒否するというのだ。
技術が増えれば利益を上げて自社を立て直す事が出来る可能性を自ら棒に振るのは自殺行為だ。
「業績が落ちた原因は、やっぱり社長婦人ね」
「ええ、社長のセドリック・デュノアが企業の手綱を握っていた頃は、業界でもかなり猛威を振るっていたのですが、現在は婦人であるクローデット・デュノアが会社を乗っ取ったのを切っ掛けに業績は一気に落ちています。一応それの裏付けも取れていますが……まったく、とんだ毒婦ですね。女尊男卑主義者の過激派を体現したような女ですよ」
溜息を吐きながら藍は内心でセドリック・デュノアに同情を感じ、調査報告書に備え付けられたクローデットの写真を破り捨ててゴミ箱に投げ捨てた。
「それと、射命丸の調査ではセドリック・デュノアの愛人の子供がフランス代表候補としてIS学園に転入するとの事ですが……」
藍は懐から転入生の写真を取り出し、紫に見せる。
写真には中性的な外見をした金髪の人物がIS学園の男子制服を身に纏った姿で移っていた。
「あら?この子……」
「ええ、男装してはいますが、れっきとした少女です」
「……きな臭いわね」
紫は写真を見詰めながら目を細める。
女尊男卑主義者の巣窟になっているデュノア社から男装した女がIS学園に……ハッキリ言って妙な企みがあるのと考えるのが自然だ。
「目的は大体見当が付きますが、調査しますか?」
「お願いするわ」
報告書を机の上に置き、紫は静かに調査を命じる。
「あと、外界(こちら)側の妖怪(二ッ岩マミゾウ)から聞いたのですが……」
「それは私の方にも話が来てるわ。ココから少し離れた神社の下級神からね。『顔馴染みの下級神の行方が分からなくなった』って」
「……そうですか」
外界での怪現象に二人は神妙な面持ちになり、暫くの間重苦しい沈黙がその場を支配するのだった。
「何にせよ、異変が大事になる前に事が済んで良かったよ。まぁ、異変って言えるのか分かんないけど」
「……そうね」
永遠亭の廊下で一夏は早苗に話しかけるが早苗は素っ気無く返事をして拗ねる様にそっぽを向く。
「……どうしたの?」
「別にぃ……せっかく初めて異変解決したのに目が覚めたらあんな光景見せられたからって拗ねてる訳じゃないんだから」
遠まわしに先程白蓮に抱きつかれた事が不満だと言う早苗に一夏は困り顔で溜息を吐く。
「……悪かったって。何か一つお願い聞いてあげっから機嫌直してよ」
「……何でも?」
一夏の言葉に早苗はピクリと反応する。
その目は何かを閃いたように光っていたが一夏からは死角になって見えない。
「う、うん。出来る範囲でなら」
そしてこの言葉を言ったのが一夏にとって最大の不覚だったのかもしれない。
「それじゃあ、今からする事に一切抵抗しないでね♪」
「へ?」
直後に早苗は一夏の顔をガッチリとホールドするように両手で掴み、自分の顔の方に引き寄せてそのまま唇にキスをした。
「んんんんっぅぅうぅっ!??!?」
「ぷはっ……抵抗しないって約束でしょ?せっかく異変解決したんだもん。ご褒美ぐらい、良いでしょ?」
早苗の姿と声色は、今までに見た(聞いた)事が無い程に色っぽく、官能的だった。
「だから、ね」
「何がだから?んむぅぅっ!?」
間髪居れずに再び早苗は一夏の唇を奪う。
しかも今度は舌まで入った濃厚なものだ。
「んんっぅ〜〜〜〜!!(こ、これはヤバイって!だけど言う事聞くって言っちゃったし……)」
変なところで律儀な一夏少年だった。
しかし、そんな二人の甘くて酸っぱい一時も唐突に終わりを告げる。
「さ、な、えぇ……貴様ぁぁ……」
「ち、千冬姉!?」
白蓮との戦いでの怪我とラストスペルの使用で全身疲労で療養中の千冬が松葉杖を突きながら現れた。
「抜け駆け何て言わないでくださいね。こんなのやったもん勝ちですから」
疲労困憊のブリュンヒルデなど恐るに足らずとばかりに早苗は再び一夏にキスをする。
「き、貴様…………だったらこっちだってなぁ!!」
疲労でまともに動かない身体に鞭打ち、千冬は一夏を早苗から引き離すように飛びついた。
というか一夏の方に倒れ込んで押し倒したと言った方が正しいだろうか?
「早苗にしたんだから。私にもご褒美をくれたって良いよな?」
そしてそのまま千冬も一夏にディープキスをかました。
「むぐぅぅぅ〜〜〜〜〜っ!!?!?」
「ちょっと!横から入るとか、キスの味が変わっちゃうじゃないですか!!」
「やかましい!お前より私の方が重症なんだからこっちを優先にしたって良いだろうが!!」
千冬を一夏から引き離そうとする早苗に怪我と疲労で体力に劣る千冬は恥も外聞も無く一夏にしがみ付いてそれを阻止する。
「ええい!さっさと諦めて離れろ!!」
「そっちが離れなさいよ!全身疲労なんだから無理せず入院してなさい!!」
「……誰か助けて」
自分の真上で組んず解れつな姉と幼馴染に一夏の小さな悲鳴が溶けていった。
結局二人の争いはこの後永琳に鎮静剤を打たれて漸く収まり、二人は丸一日の間仲良く入院するのであった。
そして時間はあっという間に流れ、連休は最終日となった。
異変発生からコレまでの間、白蓮達は1000年前と変わった幻想郷を知り、多少区別はされつつもしっかり共存できている人間と妖怪の関係に満足し(同時に外界での男女差別という大きな問題に対して酷く嘆いた)、今後はより一層平等な関係でいられるよう人里の近くで寺を建て、命蓮寺と名付けた。
一夏と千冬は万屋の仕事を一時再開して依頼や書類の片付けに奔走。
その他の仲間達もそれぞれの居場所でそれぞれの時間を過ごすのだった。
そしてこの日、河城重工によって新たなIS操縦スーツ『汎用操縦スーツ』が発表された。
汎用操縦スーツ……このスーツはISへの適正の低い者の為に使用される特殊スーツであり、ランクE〜Dの者でもこのスーツを着用すればCランク並の操縦適正を得る事が出来る。
このスーツの発表により河城重工は今まで低かった女性からの支持を得る事に成功、IS業界内での地盤をより固めていく……。
「これは、本当なの?」
命蓮寺の一室にて、自身の娘の現状が書かれた報告書を読み、エリザは目の前に居る千冬に訊ねた。
「ああ、間違いない。まさか、アナタの娘が……」
藍から貰い受けた報告書を片手に千冬も苦々しい顔付きになる。
エリザの娘は今、とある企業の陰謀に巻き込まれていた。
それも非常に胸糞悪いものだ。
「私達にも協力できる事があれば是非言ってください。助けと必要としている子を放ってはおけません」
「私も、眷属の家族を放ってはおけないわ」
「聖がやるというのなら私達も協力しない訳にはいきませんね」
「……ありがとうございます」
千冬と仲間達からの気遣いと優しい言葉にエリザは深々と頭を下げ、直後に拳を握り締めて決意を固める。
エリザの手は震えていた。娘が陰謀に巻き込まれたことへの不安、そして巻き込んだものへの怒りに……。
「シャルロット……必ず助けてあげるから、待っていて」