東方蒼天葬 弐

□オールレンジVSマルチウェポン
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「セシリアのペースね……」

 選手用の控え室では先の試合で戦った簪と鈴音がモニターで試合の様子を観戦していた。

「まさか偏向射撃まで……これ、弾が逆転するのは難しいわよ」

 一気に不利に陥った弾の姿に、鈴音はセシリアの勝利をほぼ確信するが……。

「いや、まだ分からないぞ」

 不意に背後から声を掛けられ、後ろを振り向くとそこにいたのは先程まで警備を行っていた一夏達の姿があった。

「一夏?何でココに?
アンタ警備に行ったんじゃないの?」

「たった今交代してきた。観客席じゃ込んでるからこっちで試合を見ようと思ってな」

 簡潔に答え、一夏はベンチに腰掛けてスクリーンを眺める。

「……さっき言ってた『まだ分からない』って、どういう事?」

「今は圧倒されているが、暫く耐え切れば弾の目も慣れる。
そこから先だ。弾の本領が発揮されるのはな……」

 首を傾げる鈴音と簪に対し、一夏は意味深に笑みを浮かべる。

「弾は、戦いながら強くなる。…………ラーニングの才能(センス)が有るんだ」





 そして試合ではセシリアが弾を追い詰め、決着まで残り僅かという雰囲気を出していた。
弾も何とか攻撃の隙間を見つけては反撃を試みていたが、状況から来る余裕の差に、殆どが回避され、決定打といえる攻撃を与えることが出来ないでいた。
加えて弾のシールドエネルギーはあと一撃でもまともに喰らえば尽きてしまう所まで追い詰められていた。

「これで……終わりですわ!!」

 獲物を追い詰め、セシリアは遂にとどめを刺しに掛かる。
だが、そんな中でも弾の目には闘志が溢れていた。

「……漸く、覚えたぜ!」

 迫るレーザーの中、唐突に弾は笑みを浮かべた。
それはハッタリや虚勢ではなく、勝機を見出した者が浮かべる笑みだった。
その笑みを浮かべたと同時にレーザーの一斉砲火を回避して見せた。

「!?」

「良い技(もの)、学ばせてもらったぜ!!」

 土壇場での回避に僅かに驚くセシリアを余所に弾は両手に多数のメタルブレードを展開する。

「喰らいやがれ!!」

 気合と共に、弾は両手のメタルブレードを繰り出す。
勿論直線的な動きで迫る攻撃などセシリアが見切れないはずも無く、当然これは回避。
だがしかし、これで終わる弾ではなかった。

「これが俺の偏向射撃(フレキシブル)だぁ!!」

 続けて繰り出される二撃目のメタルブレード。
先程の攻撃を上回るスピードで投げられたそれはセシリアではなく、先程投げられたメタルブレードだ。

「な!?」

 思わぬ展開に今度は大声で驚きの声を上げてしまうセシリア。
一撃目のメタルブレードはを二撃目のメタルブレードとぶつかり、その軌道を屈折させて変え、再びセシリアを襲う刃として蘇ったのだ。

「あぐぅっ!!」

 驚愕からの硬直は回避行動を鈍らせる。
ココに来てセシリアはクリーンヒットを許してしまい、弾に反撃の糸口を与える事になってしまった。

「命中させる角度、屈折させるタイミング。お前が教えてくれたことだぜ、セシリア!!」

「グ……クッ!ま、まさか……このような事が……」

 続けざまに同じ攻撃を繰り出す弾。
困惑から覚めぬセシリアはその攻撃を回避しきれず、次々にヒットを許してはシールドエネルギーが削られていく。

「で、ですが!やられる前に決めてしまえば!!」

 漸く平常心を取り戻してセシリアはビットを操作し直す。
エネルギー残量ならこちらがまだ有利。ならば先にヒットを奪って勝利を得ようとする算段だ。

「そうは、行くか!!」

 ここで弾は武装をダイブミサイルに切り替え、セシリア目掛けて全ミサイルを発射する。

「!?……ぶ、ブルー・ティアーズ!!」

 ホーミング式のミサイルが相手では撃ち落す以外に今の自分には防御法がないセシリアにはビットかライフルで撃ち落すしかない。
ライフルでは時間が掛かると踏み、セシリアは一度距離を取ってからビットでミサイルを全て撃ち落す。

「読み通り!!」

「しまっ……うぐぅっ!!」

 そしてココでも弾の猛攻は続く。ブリッツスピアのビームボウガンでミサイルを迎撃したビット、そしてがら空きになったセシリア本体を狙い撃ちにしたのだ。

「これで厄介なビットは全部潰した!あとはお前だけだ!!」

(くっ!!こうなったらこっちもミサイルで……いえ、回避されて接近されたらそこまでですわ。
かといってライフルだけでは手数不足……。
インターセプター……余計勝ち目がありませんわ!!)

 瞬く間に形勢を逆転され、苦虫を噛み潰すようにセシリアは唸る。
残っている武装は誘導型ミサイル2発とスターライトMk-V、そしてインターセプター。
この3つで逆転する方法をセシリアは必死に考える。
だが、そんな事を考える余裕を与えるほど弾はお人好しではない。
今度は自分が勝負を決めるべく一気に動き出し、ナイトクラッシャーを展開してセシリアに襲い掛かる。

(クッ!ですがこの程度のスピードなら……)

 自分に飛んでくる鉄球をセシリアは難なく回避。
ナイトクラッシャーは威力こそ大きいが、ヒートファンタズムの武装の中では最もスピードが遅いという欠点があった。

「残念。本命は俺自身(こっち)だぁ!!」

「ガッ……!!」

 更にココでも弾は型破りな手段に出る。
ナイトクラッシャーを回避したセシリア目掛けて自らが突進し、タックルを決めたのだ。

「ぬぅおおおおおぉぉぉっ!!!!」

「カハッ!?」

 セシリアに体当たりを喰らわせ、弾はそのままの体制で更に突き進み、セシリアの背を壁に叩き付けた。
これでセシリアに残された数少ない武装の一つであるミサイルは封じたも同然だ。
何故なら至近距離で爆発すれば自分も巻き込み、共倒れになってしまう為、相打ち狙いでない限りミサイルを使用する選択肢は失われた事になるからだ。

「とどめだ!」

 最早ブルーティアーズのエネルギーは風前の灯。
遂に弾は最後の一撃を繰り出すべく、ブリッツスピアを振り下ろす!

「ま、だ…まだですわ!!」

 だがセシリアも諦めない。
突如としてライフルを展開し、先の女尊男卑派の一般生徒と戦ったときと同じく、ライフルであるスターライトMk-Vを鈍器代わりに弾の手からブリッツスピアを上空へ弾き飛ばしたのだ。

「これで!!」

「させるか!!」

 しかし弾もセシリアと同じ要領でスターライトMk-Vを上空へ蹴り飛ばし、難を逃れた。
そして二人は武装を展開する間もなく取っ組み合いの体制を取った。
最早勝負の行方は誰にも分からない……と、思われたが。

((計画通り……))

 何故か二人は全く同じ事を考えながら心の中でほくそ笑んでいた。

(俺の槍を吹っ飛ばしたとでも本気で思ってんのか?
馬鹿め!同じ武術部員としてお前も簪の火事場のクソ力が馬鹿に出来ない事は十分承知済みよ!!
地球には『重力』ってもんがあるのを忘れたのか?俺の悪知恵を甘く見るなよ!!)

(フフフ……アナタが私の技術を学んだように私もアナタの悪知恵を学んで差し上げましたわ!
何故私がライフルを弾かれた直後にインターセプターを展開させずにアナタの動きを封じたのか、身の程を以って教えて差し上げますわ!!
地球の『引力』を以ってしてね!!)

 さて、二人がそれぞれ吹っ飛ばされたブリッツスピアとスターライトMk-Vはどうなったかというと……。
勿論重力に逆らえるはずも無く、現在進行形で落っこちていた…………二人の頭上に、お互いの狙い通りに。
と、なると当然……。

「アガッ!!」

「ギャン!!」

 まるでコントの一幕のように全く同時に二人の脳天にお互いの武器が直撃し、
これまた全く同時に二人のシールドエネルギーは……。

『両者共にシールドエネルギーゼロ――――両者引き分け』

 まさかの結果に会場内は騒然となる……変な意味で。

「ま、まさか……同じ手を……考えていたなんて」

「う、嘘、だろぉ……」

 槍とライフルが直撃した頭を手で押さえながら二人は武術部での説教を覚悟したのだった。



結局、この引き分けにより、暫定的に決勝進出を決めていた簪が(本人は非常に不本意ながら)優勝。
その後、準々決勝で敗退した者達の中から5位決定戦を行い、エキシビジョンマッチへ移ることになったのだった。
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