東方蒼天葬 弐

□虎と鼠の探し物(前編)
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虎と鼠の探し物(前編)

人里から少し離れた森の上空において千冬はふわふわ浮かび続けるUFOを追っていた。

「せりゃあぁっ!!」

 気合と共に武器の大剣でUFOを千冬は叩き落す。
 撃墜されたUFOは落下と同時に機体のサイズ小さくなり、掌より少し大きい程度のサイズに収まると同時に地面に落下した。

「何なんだ?これは……」

 地面に降りた千冬は撃墜したUFOを拾い上げて千冬は怪訝な表情を浮かべる。
とりあえず撃墜してはみたものの、回収したUFOから得られる情報は現状では皆無だった。

「仕方ない、霖之介にでも調べてもらうか」





 話の舞台は変わり、河城重工の休憩室では……

「はぁ〜〜?書類ミスぅ〜〜?」

 休憩室に一夏の間の抜けた声が響き、それに対して弾は苦々しい表情で頷く。

「そうなんだよ……元々ココの食堂でバイトしようと思って履歴書送ったんだけど……何をどう間違ったのか、面接初日に適性検査受けさせられてよ」

「それで訓練生になったと?」

「ああ、まぁな……でもまぁ、後悔はしてないけどな」

 呆れ顔の一夏に弾は苦笑いしながら返す。しかし、その表情にはむしろ活気がある。

「勇儀姐さんや萃香さんに扱かれんのはキツイけど、その分身体もかなり丈夫になったし、それに10日後の最終試験に受かれば正式に新型機のテストパイロットになれるかもしれないからな」

 弾の表情が真剣なものに変わる。
現在河城重工では量産化を見越した専用機の開発が行われており、十日後にはそのパイロットの選考試験が行われ、それを通過した1名はIS学園に入学する予定になっている。

「そういや、もうそんな時期か。で、自信はあるのか?」

「正直、微妙だな。結構成績は良い方だと思うんだけど……正直合格ラインには届いてないと思うし……」

 少し気を落としつつ弾は自嘲する。
ちなみに、現在の弾の身体能力、及びIS操縦技術の評価は『並の代表候補生レベル』である。
まぁ、高々1ヶ月半そこそこで素人からココまでレベルアップ出来るだけ弾の根性と勇儀と萃香の指導力は大したものだが。

「そうか……まぁ、頑張れよ。俺も暇があったら訓練付き合ってやるからさ」

「ああ、悪いな。そういやお前さ、鈴から聞いたけどアイツの事キッパリ振ったんだってな。何でだ?」

「ん?ああ、まぁな……(鈴の奴、ちゃんと彼女が居る事は伏せといてくれたんだな)」

 内心で鈴音の気遣いに感謝しつつ一夏は照れくさそうに頭を掻く。

「実は誰かとは言えないけど、こっちで彼女が出来さ」

「ブッ!?」

 一夏の口から出たあまりに予想外すぎる言葉に弾は飲んでいたスポーツドリンクを盛大に噴出した。

「うわっ!汚ぇ!!」

「ゲホッ!……す、スマン。で、でもマジかよ!?あんだけ鈍感だったお前に彼女が!?」

 咳き込みながら驚愕する弾。それほどまでにかつての一夏は鈍感だったのだ……。
その一夏に彼女が出来た等、弾にとってはまさに『スタンドも月までぶっ飛ぶ衝撃』以外の何者でもないだろう。

「ハァ、ハァ……まぁ、ダチとしては喜ばしい事なんだろうけどなぁ……なぁ、一夏」

 漸くせきが止まり、弾は少し間を空けて表情を厳しくする。

「どうした?」

「蘭の事なんだけどさ……アイツ、お前に惚れてるんだよ」

「……ああ」

 弾の口から出た彼の妹、五反田蘭の名に一夏は気まずそうに答える。
彼女もまた一夏に想いを寄せる少女の一人なのだ。

「アイツさ、お前が行方不明になったのでかなりショックを受けたみたいでさ、一時期結構荒れてたんだよ」

「!?」

「学校行く度に喧嘩起こして、悪い時には変な連中ともつるんでさ……あの頃は本当に参ったよ」

 苦い思い出を回想し、弾は表情を苦々しく歪める。
一夏の方は弾の話を呆然と聞いている。

「大体今年の正月過ぎた頃だったかな?蘭の奴、仲の悪いクラスメートの女子と近所の大喧嘩してさ……その時近くを通っていた小さい女の子に蘭が投げた石に当たって、大怪我させちまったんだ。それも、顔面に一生傷跡が残るぐらいの怪我を」

 気が付けば弾は自分の拳を強く握り、震わせていた。
まるで行き場の無い怒りを抑えるかのように……。

「その事で俺、初めて蘭の事ぶん殴って、そしたらあのクソジジイ切れまくりでさ。『蘭に何しやがる!』って俺に殴りかかってきやがったんだ」

 弾が一瞬見せた嫌悪の表情に一夏は驚く。

(弾の祖父さんは確かに蘭のことを溺愛していたけど、ここまでとは……)

「それで俺も完全に切れちまってよ『こんな時になってまでテメェはいつまで蘭を甘やかしてんだ!?』って、そっからは血を見るまで大喧嘩だ」

「ごめん……俺の所為で……」

「お前が謝ることじゃねぇよ、俺や俺の家族が甘かっただけだ。自分にも蘭にもな」

 自嘲気味に弾は一夏の謝罪を受け流す。
完全ではないとはいえ一夏の事情を知っている分彼を責める事はしなかった。

「まぁ、そういう事があって蘭も自分のやった事が原因で俺達が殴り合うのを見て大泣きしちまってさ……それで今は割と落ち着いたんだけど、あれ以来俺はクソジジイと殆ど絶縁状態になってな。ただ同居してるだけって感じだ……」

「それで、ココに住み込みでバイトしようと……」

「ああ、その後はさっき話した通りだ。……それより蘭の事だが、お前に彼女が出来た事は暫く黙っててやってくれないか?アイツはお前と会えるかもしれないって聞いたとき凄く嬉しそうだったからさ」

「ああ、分かった。俺だってこれ以上蘭を追い詰めるような事はしたくないからな」

「悪いな。お前の事は時期を見て打ち明けるよ」

 一夏の言葉に弾は穏やかな笑みを浮かべ感謝の意を示した。

「あ、一夏さん」

 二人の会話が区切りを迎えるのとほぼ同時に休憩室に美鈴が入室してくる。

「っっ!!?!?」

 美鈴の姿を見た弾の体が一瞬にして硬直した。
この時弾は全身に電流が入る感覚を覚えたと後に語っている。

「おお、美鈴。調整終わったのか?」

「はい、最高の出来でしたよ!私と相性抜群です!!ところでその人は?」

 一夏の問いに美鈴は意気揚々と答え、直後に美鈴は弾の方を向く。

「ああ、俺のダチで勇儀と萃香の所で訓練を受けてる五反田弾だ」

「そうですか。はじめまして、紅美鈴です」

「は、はは…はじめまして」

 どもりながら弾は美鈴の挨拶に応える。どっからどう見ても緊張している。

「私と椛さんはこれから向こう(幻想郷)に戻りますけど、一夏さんはどうします?」

「ああ、俺はもう少しこっちに居るよ。帰る時は紫さんを通してくれ」

「分かりました。椛さんにも伝えておきます」

 一夏に別れを告げ、美鈴は休憩室を後にした。
そして残された弾は…………。

「い、一夏ぁ!!」

 突然一夏に詰め寄り、大声を上げた。

「頼む!俺を鍛えてくれぇぇっ!!(絶対にIS学園に行くんだ!!)」

「あ、ああ(弾、惚れたな……)」

 友人に突如として訪れた春に一夏は呆然としつつも弾の訓練に付き合うこととなったのであった。



「春ですよー」

 春を訪れる妖精、リリーホワイトは突然そんな言葉を発した。

「リリー、何言ってるの?もう春なんてとっくに来てるよ」

「んー、何か言わなきゃいけない気がして」

 これが弾に訪れた恋という名の春を告げたものなのかどうかは定かではない。




 その船の甲板で、彼女は一人鼻歌交じりに洗濯物を干していた。
明るい金髪をセミロングに揃え、顔付きはヨーロッパ系で非常に整っている。
外見は二十台半ばだろうか?しかしその佇まいは外見年齢とは不相応とも言えるほどに落ち着いており、どこか母性を漂わせている。

「エリザ、ちょっと良い?」

 エリザと呼ばれた女性の背後から別の女性が声を掛ける。
尼を思わせる頭巾を被り、その下からはセンター分けの水色の髪が覗いている女性だった。

「一輪様、何か御用で?」

 洗濯を中断してエリザは頭巾を被った入道使い、雲井一輪に丁寧に応対する。

「ええ、飛蔵の破片の事だけど、どうも私達以外にアレを嗅ぎ回ってる連中が居るみたいなのよ。ナズーリンだけじゃ戦力的に不安だから、ちょっと見て来てもらえないかしら?」

「分かりました」

 一輪の頼みを了承し、エリザは洗濯を切り上げて引き出しからあるものを取り出すと甲板から飛び立とうとする。
しかし、そんな彼女を不意に一輪は呼び止めた、

「けど、良いの?姐さんを解放するのに協力してくれるのはありがたいと思ってるけど、アナタは態々私達に付き合ってくれなくても良いのよ。地上に出られた以上、外界に戻る方法はあるんだから」

「一輪様、それは言わない約束ですよ。私が今こうして生きていられるのもアナタが瀕死の状態で地底に流れ着いた私を拾って、眷族にしてくれたからではありませんか。『恩を受けた相手には必ずそれを返す』……私は母からそう教わり、娘にも同じ事を教えました。聖という方を解放し終わった時こそ、改めて娘の所へ行かせて貰いますよ」

 一輪からの気遣いの言葉に対してにこやかに答え、エリザは甲板から飛び立った。



「さぁ、どこにいるのかしら?」

 ポケットから取り出した8本のクリスタル製のペンデュラムを指と指の間に挟む様に持ち、エリザはペンデュラムに魔力を込める。
直後に3本のクリスタルが動き出し、発光する。その内二つは激しく点滅している。

「近いわね、その上かなり強い反応が二つも……ナズちゃん、無事だといいけど」

 優しげな表情を厳しいものに変えてエリザは目的地へ向かった。

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