東方蒼天葬 弐

□封印された大魔法使い
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 敵の防衛網を突破した千冬、そしてそれに巻き込まれた早苗は聖蓮船の船腹に派手に突っ込み、船の内部に進入する事に成功した二人だったが……。

「あぅぅ……」

 早苗は突撃の衝撃で格好悪く目を回している。
いや、これはまだ良い。千冬に至っては…………

「むぐぅーーっ!ふぐぉーーっ!!」

 床に頭から突っ込んでしまい、見事な犬神家状態になっていた……。

「うぅ…………まったくもう、ファンがこんな姿見たら泣きますよ」

 意識を取り戻し、早苗は千冬の身体を床から引き抜いた。

「ブファッ!す、すまん……最近こんな扱いばっかりだな……私、ヒロインなのに」

 最近自分がギャグ担当になってきてる事に千冬は恨めしそうに愚痴る。
というかメタ発言は危険なのでやめろ。

「しかし、何なんだココは……」

 自分の開けた穴から外を覗きながら千冬は怪訝な表情を浮かべる。
周囲は赤一色に染まり、なんとも形容しがたい斑模様の空間と化していた。

「魔界……の筈ですよ。来た事無いから何とも言えないけど……そうだ!あの金髪の虎みたいな妖怪は?」

 一通り周囲を確認し終えた後、早苗は敵の中で唯一聖蓮船に乗り込んだ寅丸星の存在を思い出し、彼女を探す。

「いた!あそこだ!!」

 船首の先に佇んでむ星を発見し、すぐさま二人は星に近付こうと飛び立つ。

「遂に……遂に、この時が……」

 感動を前面にあらわし、星は手に持った宝塔を高々と掲げ、同時に宝塔は眩い光を発した。

「うっ!?……」

「何、これ?」

 宝塔の光は数秒ほどで消えてしまう。
一瞬コレで終わりかと思う千冬と早苗だったが、直後にそれは間違いだと悟る。

「何だ……魔界で、日の出?」

 地平線(と呼ぶには語弊があるかもしれないが)の先から上る光が千冬達の身体を明るく照らす。
そして『彼女』は姿を現した。

「ああ、法の世界に光が満ちる……」

 ウェーブの掛かった金髪に紫のグラデーションの長髪に金色の瞳。
白黒のドレスを身に纏った美麗な顔付きをした美くしい女性だった。

「ああ……聖、やっと……やっと……」

 現れた女性を前にして星は膝を付いて大粒の涙を流す。
聖と呼ばれた女性は星に近付き、星の手を自らの手で包み込むように優しく握った。

「星、アナタが…いえ、アナタ達が私を解放してくれたのですね」

「聖……私は、あの時、アナタを見捨ててしまった事を……ずっと」

 星の目からは涙が止め処なく流れ、聖はそんな彼女の肩を抱く。

「分かっています。だから、今はお休みなさい……その傷を癒すために」

 聖がその手を星は全身の力が抜けたかのように体制を崩してその場に倒れ込み、穏やかな顔で寝息を立てる。
先ほどまでの戦闘で星は既に体力と妖力を多量に消費していたため、聖の治癒魔法を切っ掛けに緊張の糸が解れ、気を失ったのだ。

(な、何?この人の魔力……まるでムラを感じない。凄く自然……一体この人は?)

「外の世界の方々ですね?はじめまして、私の名は聖白蓮。大昔の僧侶です……いえ、魔法使いと言った方が近いかしら?」

 独特な雰囲気に気圧される早苗を余所に白蓮は礼儀正しく頭を下げながら自己紹介をする。

「聖白蓮だと!?」

 その名を聞いて大きく反応したのは千冬だった。

「知ってるんですか?」

「慧音から聞いた事がある。千年前、伝説の僧侶と言われた聖命蓮の姉で、高名な僧侶だったが、裏では妖怪を助けていたが為に魔界に封印された魔法使いだ。妖怪僧侶とも言われていたな」

「よく知ってますね……」

 千冬の解説に早苗は感心と呆れが入り混じった反応を見せる。

「これでも一応寺子屋の教師だからな……歴史を教える事もある」

「少々誤解があるようですが、私は人間の味方でもあります」

 白蓮は穏やかな表情を崩さずに二人の会話にわって入る。

「私はかつて人間だった頃、妖怪と接し、気付いたのです。神も仏も妖怪の一種でしかなく、人が妖怪として退治するか神として崇めるかでしかないと。……結局は人も妖怪も神も皆平等なのだと。ですが、当時の人々にそれを受け入れられる事はありませんでした」

 悲しい思い出を語るかのように白蓮は淡々と過去を語る。

「やがて私は妖怪のために魔法を使い、妖怪との平等な共存を訴えたが為に、人々に忌み嫌われ、アナタの言う通り私はこの法界に封印されたのです。……アナタ達はどうなのですか?」

「貴様が平等主義を掲げるのは結構だ。だが、人間と妖怪とでは根本から違う。ある程度区別されているからこそ均等が保たれているんだ。貴様が無用な混乱を招くと言うのであれば……」

 背中に背負う大剣を片手で持ち上げ、その切っ先を白蓮に向けながら千冬は威嚇するように白蓮を睨みつける。

「もう一度封印という事も覚悟してもらうぞ」

「わたしも大体同じ意見です。妖怪だから仲良くなれないなんて言わないけど、人は人妖怪は妖怪です!」

「そうですか。……千年前より少しは良くなったとはいえ、結局人は私が寺に居た頃と大して変わらない……」

 白蓮の身に纏う雰囲気ががらりと変わる。
敵意と言うよりは千冬達に立ち向かう気迫とでも言うべきだろうか?
少なからず戦意に満ちている事だけは明らかであり、それを感じ取った千冬と早苗はそれぞれ身体全身に力を入れるように身構える。

「まことに浅薄で浅才非学である!……いざ、南無三!!」

白蓮の両手から右手と左手を繋ぐように光の帯が現れ、やがて光は文字となり、光の巻物とでも言うべき形になる。

「《魔法『紫雲のオーメン』!!》」

 光の巻物の形成に呼応するかの様に降り注ぐ弾幕。
その名に相応しい紫の魔力弾が雨の如く吹き荒れ、千冬と早苗を襲う。

「わわっ!?」

「初っ端からコレか!?」

 一撃目から放たれる高密度の弾幕に驚き、舌打ちする二人だが直ぐに回避と防御に集中して迎撃に移り、迫り来る弾幕を避け、あるいは叩き落していく。

「早苗下がれ!《妙技『零落白夜〈波〉』!!》」

 早苗に合図すると同時に千冬は大剣を振るって刃状の大型魔力弾を白蓮目掛けて放った。

(よしっ!直撃コースだ!!)

 放たれた刃は弾幕を薙ぎ払いながら白蓮に向かって猛スピードで飛んでいく。
しかしその一撃を前にしても白蓮に動く気配は無い。

「滅!」

 独特の気合の一喝と同時に突き出された白蓮の右手が光を放ち零落白夜の刃を掻き消した。

「何っ!?」

 遠当ての為直接攻撃スペルよりも威力の低いスペルとはいえ威力は十分にある一撃を事も無げに防がれ千冬は内心動揺を隠せない。

「それなら、《秘術『グレイソーマタージ』!!》」

 千冬の後に続くように早苗はスペルを発動させ、星状に広がる弾幕が多方向から白蓮を強襲する。

「無駄です!」

 早苗の弾幕から白蓮を守るように彼女の周囲に蓮華の花が咲き乱れ、そこから放たれるレーザーと弾幕の数々が早苗の弾幕を打ち消した。

『《魔法『魔界蝶の妖香』!!》」

 間髪入れずに2枚目のスペルカードが発動される。
蓮華の花から吹き荒れるレーザーと弾幕の数々が千冬と早苗を的確に狙い、迫り来る。

「くぅっ!」

「な、何て威力……」

 大剣と霊気の障壁で辛うじて弾幕を防ぐ二人だが、表情には焦燥の色が濃くなる。

「反撃の隙は与えない!《光魔『スターメイルシュトロム』!!》」

 防戦一方になりつつある二人に続けざまに繰り出される新たなスペル。
曲線を描くような変則的な魔力のレーザーが二人に撃ち込まれる。

「ぐぁぁっ!!」

「キャアア!!」

 防御も虚しく被弾してしまい、二人は悲鳴を上げる。

「終わりです!《大魔法『魔神復誦』!!》」

 とどめの追撃の様に繰り出される新たなスペルカード。
蓮華の花からロケット噴射のように魔力が噴出し、弾幕が所狭しとばら撒かれ、二人を追い詰める。

(射撃じゃとても勝ち目が無い。……かと言ってこいつに近付くとなると……そうだ!)

 千冬の頭の中に天啓のように策が閃き、千冬は早苗にのみ聞こえる様に小声で話しかける。

(早苗、私が合図をしたら私に向かって撃て)

(!?……そういう事。了解)

 千冬の意図を察して早苗は霊力を高める。

「今だ!」

「《奇跡『白昼の客星』!!》」

 合図と共に小型の霊力弾が千冬の背後へ集中して放たれた。

「ぐっ……生徒の使った戦法を真似るのは少々気が引けるが、捕らえたぞ!《秘技『零落白夜〈双〉』!!》」

 背中へのダメージも気にせず衝撃を推進力代わりに千冬は急加速し、白蓮に接近し、千冬は魔力を一気に高める。

「ッ……そんな無謀な策で!」

 思わず驚愕して面食らう白蓮だがすぐに思考を切り替えて迎撃に移り、弾幕を千冬に集中させる。

「ぐぅっっ!」

 正面と背後から弾幕の板ばさみを受け千冬は苦悶の声を上げる。
しかし千冬は両腕で頭部をしっかりと防御し、当たる面積を最小限に抑えて弾幕に頭から突っ込み、決定的なダメージを避けながら接近する。

「貰ったぁ!!《秘技『零落白夜〈双〉』!!》」

 そして射程距離に入ると同時に白蓮目掛けて大剣と魔力の剣を振り下ろした。

「…見事!」

 千冬の己の肉体を省みぬ覚悟を賞賛しつつ、白蓮は即座に懐から独鈷杵を取り出し、持ち手を柄に見立てて先端から魔力の刃を生成した。零落白夜を受け止めた。

(何!?私と同じ様な技を!?……クソ!!)

 一瞬驚愕する千冬だが最早後戻りは出来ないとばかりに二刀流の零落白夜による連激を繰り出す。

「だぁあああああああ!!!!」

「ハァアアアアアア!!!!」

 雄叫びを上げるように声を張り上げ、連続してぶつかり合う刃と刃。
その苛烈さは早苗に援護射撃の余地を与えない程だ。
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