東方蒼天葬 弐

□覚悟の有無(中編)
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 女子たちの追っかけを振り切り、一夏達三人は何とか遅刻する事無くグラウンドに到着した。

「全員揃ったようだな。今回はまずこちらが指定した二人と模擬線を行う。……織斑、前へ出ろ」

 千冬の指示に従い、一夏は他の生徒達より前に出て千冬の隣に立たされる。

「全員知っているだろうが、織斑は正式な訓練を受けており、実力もそん所そこらの代表候補程度では一撃も与えられん。……もう察しは付いただろうが、一人目の対戦相手は織斑だ、そしてもう一人は……」

「ひゃぁぁぁ!!ど、退いてください〜!!」

 千冬の言葉を遮るように悲鳴が響く。
振り向いた生徒達の視線の先からはラファール・リヴァイヴを装着した真耶が落下してくる。
制御が上手くいっていいないのか、落下地点は予定を大きく外れている。
このままでは地面に落下するのは時間の問題だ。
ISを装着しているので致命傷を負う心配は無いだろうが落ち方が悪ければ骨折の危険はあるだろう。
そんな中、一人の人影が瞬時に専用機を展開して飛び上がった。

「大丈夫ですか?」

「あ、ありがとうございます、犬走さん……」

 専用機『白牙』を身に纏い、椛は地面に激突する寸前の真耶を抱えて救助する。

「もう一人は…彼女、山田先生だ」

 呆然とする生徒達を千冬の言葉が現実に引き戻す。

「お前達はそれぞれ二人一組になって戦ってもらう。ただし、制限時間は一戦につき5分、それ以前に決着が付きそうなのであれば私が止める。……だれか対戦相手に立候補する者は?」

「「私がやります!!」」

 真っ先に挙手したのは箒とラウラだ。
二人の挙手を切っ掛けに他にも数人の生徒が挙手し、箒達と合わせて計7人だ。
そしてその中にはセシリア、弾、鈴の姿もあった。

「……ジャンケンで4人決めろ」

 これから約数分後、数回の相子を経たジャンケンの結果、一夏の相手に箒とラウラ
、真耶の相手には弾とセシリアが選ばれたのだった。

「決まったようだな?5分だけ時間を与える。その間作戦と連携を打ち合わせるように」

『はい!』

 千冬の指示に頷き、4人はそれぞれのチームに分かれてその場から少し離れ、その場には残りの生徒達と千冬と真耶が残された。



「オルコットだっけ?転校初日だが、今回はよろしく頼む」

「ええ、こちらこそ」

 フレンドリーに声を掛ける弾にセシリアもそれ相応の態度を持って返答する。
お互い第一印象は悪くないようだ。

「それで、連携の事だけど、どうする?一応俺は訓練の時に何度か他の奴と連携した事もあるけど……」

「私は、生身でなら多少はありますが、ISの訓練では殆ど経験が無いですわ。……それ以前に初対面同士の私達では碌な連携も出来ないでしょう?」

 表情をお互いに真剣なものに変えて二人は苦々しく唸る。
以前の二人だったら真耶が相手では油断していただろうが現在はお互い訓練の甲斐あって『相手の外見や非戦闘時の素振りで判断したら痛い目を見る』という事を痛感している。
ちなみにセシリアの連携訓練でのパートナーは専ら簪である。

「それなら、お互いが出来る限り邪魔にならない事を心掛けるか。……俺は近〜中距離の格闘戦が得意だけど、オルコットは?」

「それなら丁度良いですわね。私は遠距離、射撃がメインですから。余り手の込んだ武器(ビット等)を使わず、主武装でお互いの得意距離を担当、というのがベターでしょう」

「ああ、打ち合わせ時間も碌に無いし、シンプルに行くか。後は、合図(サイン)を決めておくか……」

 お互いに決して自己主張せず、かと言って決して謙虚になるわけでもなく、5分間の作戦会議は忌憚無く進んだ。



(一夏、ココで私の力を示して目を覚まさせてやる!!)

(織斑一夏!さっきは不覚を取ったが、今度こそ教官や他の連中が見ている前で潰してやる!!)

 逆に一夏と対戦する箒・ラウラ組は無言のままお互いの目的のみを考え、パートナーである相手との会話など殆ど無かった。

「……邪魔だけはするな」

「こっちの台詞だ……貴様は後ろで指でもしゃぶっていろ」

「なんだと……!」

 そして口を開けばこの有様……弾・セシリア組とは雲泥の差だった。





「準備は出来たな?ではこれより模擬戦を開始する。まずは五反田とオルコットからだ。山田先生、お願いします」

「はい」

 千冬からの指示を受け、三人はグラウンドの中央に集まる。
直後にセシリアはブルーティアーズ、弾は約一週間前に手に入れた専用機『ヒートファンタズム(熱き幻想)』と、それぞれ専用機を展開して真耶のラファールを迎え撃つ。

「始め!」

「(先手必勝だ!)行けっ!!」

 千冬の合図と同時に真っ先に動いたのは弾。
両手に投擲用丸鋸型カッター『メタルブレード』を展開して真耶目掛けて投げつける。

(っ!?……速い、だけど狙いが甘いです!)

 真耶メタルブレードの直線的な動きを即座に見切って回避すると同時に両手に装備されたアサルトライフルを発射する。

「Light(右)!」

 しかし真耶の攻撃とほぼ同時にセシリアからが大声で指示を出し、弾は即座に右に回避する。
そして、弾が回避すると同時にセシリアのライフルが火を噴き、真耶目掛けて弾丸が放たれる。
味方の回避を援護し、敵に追撃を加える……連携において基本中の基本とも言えるパターンだが、基本だからこそ集団戦において非常に重要な要素であると言える。

「やりますね。…でも!」

 しかし流石は元代表候補とでも言うべきか、真耶の反応速度もかなり高く、これを回避してみせるが……

「そこだ!」

「!?」

 間髪いれずに弾が急接近し、それとほぼ同時に弾の手には近接戦用可変ビームランス『ブリッツスピア』を展開、そのまま接近する勢いに乗せて槍を突き上げた。

「チィッ!」

 息も吐かせぬ2人の連携による連続攻撃に真耶は一瞬苦悶の声を漏らすが、それでも彼女は弾の槍を紙一重で回避する。

「…取った!」

「クゥッ!!」

 しかし弾は周囲の予想に反し、笑みを浮かべてみせ、突き出した槍をそのまま振り下ろし、そのまま真耶の身体を薙ぎ払おうとする。
槍の利点であるリーチの長さは使い様によって突きだけではなく薙ぎ払い等でも大きな効果が期待できる。
懐に入られると弱いと言う弱点はあれど、それは逆に言えば槍の有効範囲内ではあらゆる局面に対応できるという事でもある。

「まだ!」

 しかし刃先が相手を向いていない状態では決定的なダメージを与えられる武器にはなりえない。
それを熟知している真耶は即座に反撃に移り、槍の柄の部分に掴み掛かる。
平たく言えば一夏が対レミリア戦で見せた戦法の真似である。

「掛かった!」

「!?」

 しかし真耶の反応に弾はさらに口の端を吊り上げてみせ、真耶は『ギョッ』と目を見開く。
突然槍の刃先の関節が稼動し、真耶の方を向いたのだ。
さらに、出力を一気に上げる事でビームはその刃を伸ばし、槍は大鎌へと変化した。

「グゥッ…な、何て無茶苦茶な武器……」

「今だ!オルコット!!」

 間一髪直撃を避け、刃が胴に掠める程度のダメージに抑えた真耶を余所に弾の大声が響く。

「貰いましたわ!!」

「!?」

 真耶の視線の先にはセシリアが既にスタンバイしていた。
そして回避直後の真耶目掛けて間髪入れずに狙撃を見舞った。

(避けられない!?……だったら!!)

 回避直後でほぼ硬直状態の真耶に回避する術は無い。
だが、防ぐというのであれば話は違う。
真耶は即座に手に持った二丁のアサルトライフルの内、片方を自身とセシリアの斜線上に来るように投げ捨てた。
火薬の詰まった重火器(アサルトライフル)はライフル弾とぶつかると同時に爆発を起こし、結果的にセシリアの撃ったライフル弾は真耶に命中する事無くアサルトライフルと共に爆散してしまった。

「そこ!!」

「キャァッ!!」

 さらに間髪入れずに真耶のラファールはレールガンを展開、発射し瀬尻にダメージを与えることに成功する。

「オルコット!」

「よそ見している暇は無いですよ!」

 ダメージを受けたセシリアに弾は一瞬気を取られるが、それが命取りだった。
その僅かな隙を見逃さず、真耶は武器をアサルトライフルに切り替えて弾目掛けて連射した。

「うわっ!?」

 何とか回避行動を取るものの、それも虚しく弾は数発の弾丸を喰らってしまった。



「中々、良い具合じゃない?」

 弾・セシリア組の戦いを眺めながらレミリアは呟きを漏らす。

「ああ、二人とも慣れないチーム戦で自分達の力が出来るだけ潰し合わないように立ち回っている。でも、やっぱりまだ個人技中心ってのは否めないな」

「そうね。今の二人なら、チーム戦よりもシングル戦の方が良い結果が出せるわ」

 レミリアの言葉に一夏と咲夜も揃えて口を開き、弾とセシリアの能力と戦闘を冷静に分析する。


「チッ…余裕ぶって戦闘分析か。調子に乗って……」

 一方でラウラは後方から一夏達を睨み付けながら舌打ちする。
弾達の試合は眼中に無いかのように終始目もくれない状態だ。

「……調子の乗ってるのはどっちだか?」

 そんなラウラの隣から冷めた視線と言葉が飛ぶ。
2組に在籍する椛だ。

「今何と言った?」

「別に…ただ少しは軍人らしく冷静に見るべきものを見たらどうです?」

 ラウラの怒りの篭った視線を物ともせず、椛は冷めた表情と視線を向け続ける。
真面目な椛にしては珍しく喧嘩腰だった。

(あら、珍しい……あの椛が)

 そんな様子に文は目を丸くする。
普段の椛ならココまで露骨に喧嘩腰になることは滅多に無い事だ。

「そこまで!試合終了だ!」

 そんな彼女達を尻目に、千冬から試合終了の合図が掛かり、文は再び視線を弾達に向けた。





「はぁ……最後ら辺は結構押されっぱなしだったな」

「ええ、チーム戦の経験が薄いのが恨めしいですわ」

 額から流れる汗を拭いながら弾とセシリアはお互いに苦笑いしながら試合を振り返る。
真耶からダメージを受けて以降、二人は序盤での勢いが無くなり、真耶の目と勘が二人の連携に慣れた事も手伝い、連携は的確に妨害され、二人は真耶に決定的なダメージを与える事も出来なかった。
しかし、それでも決して二人は足を引っ張り合う事無く、最後まで粘り、真耶も二人にそれ以上のダメージを与える事も出来ず、結局時間切れという結果に終わった。

「ハァ、ハァ……そんな事無いですよ。二人共良い連携でしたし、これでも結構危なかったんですよ」

 少し肩を落とす二人を激励するように真耶は肩で息をしながら弾とセシリアを賞賛する。
その言葉に二人も好感を覚えたのか、表情を少し緩めた。

「二人共、初めての連携にしては上出来だ。今後も精進するようにな。……次の試合、織斑、篠ノ之、ボーデヴィッヒ、前へ出ろ!」

 弾とセシリアに労いの言葉を掛けた後、千冬は次の試合に移るべく、一夏達の名を呼び、三人はそれぞれ機体を駆ってグラウンドの中央に集まった。
(なお、箒は訓練機、打鉄を使用)
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