つよきす愛羅武勇伝・鉄乙女編2

□最後の切り札!
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レオSIDE

「アウトロード?」

「ああ、間違いねぇよ」

 優一の試合が引き分けに終わり、対戦相手の十六夜共々係員に肩を借りながらリングを降りる中、俺達はフカヒレから桐ヶ谷達の秘密を聞いていた。
アウトロード……ALO最強と名高いギルドにしてSAO事件の解決に最も貢献したギルド『黒衣衆』がその名を変えた集団だ。

「ネットゲームで最強、現実でもとんでもない実力者か……」

「……ネットゲームとは、一体どんなものだ?さっぱり分からん上に想像が出来ない」

 ……乙女さん。せめて大まかな内容ぐらい知っとこうよ。
余談だが乙女さんの現時点での機械操作レベルは『携帯の通話とメールが使える。ただしメールは返信するのに1時間は掛かる』程度のものだ。
言っとくけどな、これでも結構レベル上がってんだぞ。

「大和、教えてやってくれ。多少鬼軍曹みたいになっても良いから」

 厳しいかもしれないけど、最低でも知識ぐらいは頭に入れておかないと今後社会に置き去りにされかねない。

「了解。さぁ、耳の穴かっぽじって聞けよ時代錯誤の女武将が!」

「ぬぐぐ……屈辱だ!
(けど機械御地は自業自得だから反論出来ない)」

頑張ってくれ、乙女さん。
今夜は思いっきりベッドの上で慰めてあげるから……。



「しかし、探せば居るんだな。現実(リアル)でも仮想現実(バーチャル)でもハイスペックな奴って」

「うん。どうにも『ネトゲ内でのの強さと格好良さは現実の姿と反比例する』というイメージが強いからなぁ……」

「本当、こっちのネトゲプレイヤーとは大違いだよねぇ……」

 嗚呼……フカヒレが本気で哀れに思えてきた。

「やめろ!そんな目で俺を見るなぁ〜〜っ!!
っていうか、雑談パートじゃ俺を弄らんと気が済まんのか!?」







「お前ら、何時まで漫才やってんだよ?」

「あ、すまん……」

 拓己の突っ込みに漸く俺達は現実に引き戻された。
相手側は既にリングに上がって準備万端だ。

「フカヒレ、アイツの事分かるか?」

「ああ、アウトロードは基本的にALOでも現実と同じ顔付きしてって噂だからな。
あれは……《閃撃のヴァル》だな。
ギルド……いや、ALO随一のスピードを持つ槍の使い手だ」

 閃撃か……つまり閃光の如く速いって訳か。
それにALO最速と来ればやっぱり奴の相手に相応しいのは……。

「よし!なら俺が……」

「いいや、ココは俺にやらせてもらうぜ!」

 リングに上がろうとした俺に、拓己がストップをかけ、そのまま跳躍してリングに上がってしまった。

「拓己テメェ!人が折角やる気出してるって時に……」

「悪いな、けど俺は一度どっかのスピード野郎にタッグマッチとはいえ黒星付けられてるんだ。
そいつに勝つための予行演習としちゃ打って付けの相手だぜ!」

 ……ったく、しょうがねぇな。(←自分も乙女さんにリベンジするために強くなったから言い返せない)

「張り切りすぎて連敗地獄に落ちないようにな!」

「へっ、当たり前よ!」





NO SIDE

 リングに上がった拓己を見据え、対戦相手の少年、神城烈弥(かみしろれつや)は背負った槍を手に取り、口元に笑みを浮かべて身構える。

「予行演習とは言ってくれますね。言っとくけど僕は練習気分で勝てる程甘くないですよ」

「すまないな、気に障ったなら謝る。
だが安心しろ、俺は本気でやらせてもらうつもりだ」

 烈弥の言葉に拓己も身構え、臨戦態勢を取る。

「他の奴らに習って名乗っておくぜ。俺の名は小野寺拓己。通り名は鳥人だ」

「神霆流師範代・神城烈弥。通り名は閃撃」

 名乗り終えた二人の表情が真剣なものに変わり、リングを中心に場の空気が張り詰めていく。

「始め!」

「行くぜっ!!」

 そして試合開始のゴングが鳴ると同時に拓己が真っ先に動いた。

「《ベルリンの赤い雨!!》」

「ッ!!」

 開始と同時に一気に間合いを詰めて、鋭い手刀による一撃が繰り出される。
烈弥はこれに素早く反応し、槍を盾にして手刀を防いでみせた。

「セァッ!」

「遅い!」

 烈弥はそこからカウンター気味に右脚を振るい、拓己目掛けてミドルキックを放つが、これは躱されてしまう。だが……

「《鬼雫!》」

「うぐっ!」

 続けざまに放たれた目にも留まらぬ速度の突きに、拓己は回避しようとするも反応が僅かに遅れ、槍は拓己の脇腹を掠める。
それによって生じた拓己の隙を烈弥は見逃さない。

「《ツイン・スラスト!》」

「グハァッ!」

 2連撃の突きが拓己の身体を穿つかのように打ち込まれ、拓己の身体は後方へと吹っ飛ばされた。

「グッ……くそっ!まだだぁっ!!」

 吹っ飛ばされながらも、拓己はすぐに体勢を立て直し、近くのロープを足場にして跳躍。
そのまま勢い良く烈弥目掛けてミサイルキックを繰り出す。

「クッ…!」

「掛かったな!オラァ!!」

 紙一重でキックを回避する烈弥を拓己はすれ違いざまに掴み、そのまま着地の勢いに乗せて抱え上げ、そのままコーナーポスト目掛けて投げ飛ばした。

「わわっ!?……クッ、この程度で!!」

 だがこれもまた不発に終わる。
投げ飛ばされる中、烈弥は槍をマットに突き立てて勢いを殺し、棒高跳びの要領で体勢を整え直しのだ。

(何て野郎だ……!回避や移動のスピードはレオより少し遅いが、刺突の速度はレオのパンチよりも速い!
レオが移動速度なら、コイツは攻撃速度って所か……。
チッ…今のままじゃ分が悪いな……)

 ココまで一貫して自分の技を受け流し、潰している烈弥の実力と自分との相性の悪さに拓己は戦慄を禁じえない。
投げ技を主力とする拓己にとって烈弥のリーチの長さ、そして掴む前に一撃を叩き込まれてしまう攻撃速度は非常に相性の悪い相手だった。

(仕方ない……久々に“アレ”を使うか)

 思考を切り替え、拓己は一度構えを解き、腰を少し下ろして別の構えを取った。





レオSIDE

「何だ?拓己の奴、急に構えを変えたぞ?」

 突然構えを変えた拓己に俺達は顔に疑問符を浮かべる。
今までの機動力を重視した構えとは打って変わり、こっちはやけにどっしりとした構えだ。

「アレは、相撲に似ているが……少し違うな」

「……モンゴル相撲だ」

 乙女さんの疑問に背後から優一が答える。
思ったより回復早かったな……。

「モンゴル相撲って、拓己の奴レスリング以外にそんなの覚えていたのか?」

「ああ、先のタッグマッチじゃ見せる機会が無かったが、拓己は昔モンゴル相撲の使い手から投げ技の基礎のレクチャーを受けていてな。
それとレスリング、そして俺の見様見真似の骨法を足し合わせて今のスタイルを作ったんだ。
言わばこれから見せるのは拓己のファイターとしての原点。防御と投げを徹底した大木の様な戦い方だぜ」

 期待の篭った目で拓己を見据え、優一は不敵な笑みを浮かべるのだった。





NO SIDE

(雰囲気が変わった?いや、それよりも……まるで隙が無い)

 戦闘スタイルが変化した拓己の姿と隙の無さに烈弥は直立不動のまま顔を顰める。
下手に動けば却って隙を作り、そこに漬け込まれてしまう可能性があるからだ。

「どうした?来いよ……」

「挑発されるがままに突っ込むとでも?
生憎隙の無い相手に無策に仕掛ける趣味は無いんですよ」

「そりゃそうだな。……なら!」

 一瞬獰猛な笑みを見せた拓己は一気に気を高め、そして……

「っ!?」

「無理矢理来て貰うぜ!!」

 烈弥の足下にブラックホールを生成し、落とし穴のようにそこに落とした。
直後に自身の上空に烈弥をワープさせ、そこを迎え撃つ!

「くっ!」

 しかし、烈弥も持ち前の反応速度を活かして落下しながらも槍を振り下ろす。

「甘い!」

 だが、コレを拓己は受け流し、烈弥の身体をガッシリと掴んで拘束し、そのまま垂直落下式ブレーンバスターで烈弥の脳天をマットにた叩き付けた!!

「うぐぁぁっ!」

「スピードはあっても直接叩き付けられる技は効果ありだな。そら、もう一発!」

 掴んだ手を緩ませず、続けざまに拓己は烈弥を抱え上げて宙高く跳び上がった。

「防御重視だからって俺の鳥人殺法は健在だぜ!」

「ぐっ!?」

「《ザ・タービュレンス!!》」

 そのまま拓己は烈弥の両腕を後ろ手に固め、そのまま錐揉み回転しながら一気に落下し、顔面からマットに叩き付けた!!

「ウグアァァァッ!!」

 凄まじい衝撃に烈弥は意識が一瞬飛びそうになってしまう感覚を覚える。
そして拓己は一気にフィニッシュへと移行する!!

「これで……最後だぁーーーー!!」

「ぐぐっ……!!」

 拓己は烈弥の両足を掴み、ジャイアントスイングでコーナーポストへと一気に投げ飛ばした!!





(こんな、所で……終わって…………)

 豪快に投げ飛ばされ、今まさにコーナーポストに叩き付けられようとする中、並のファイターなら諦めてしまう状況の中で、烈弥の心には諦めの文字は未だ浮かんでいなかった。
寧ろ有るとすれば、それは『怒り』だ。
序盤で攻勢に出ておきながら相手が戦闘スタイルを変えた途端逆に一気に逆転され、今まさに敗北しようとしている。
そんな自分に対して沸々と静かに、しかし瞬く間に怒りの炎が燃え上がり、闘志が全身に満ちていく。
そして、コーナーに激突寸前となったその時それは爆発した。

「終わって…………タマルカァァーーーーーッ!!!!」

 叫びと共に怒気を爆発させ、烈弥は瞬く間に体勢を立て直して激突を防ぎ、拓己目掛けて飛び掛かった。

「何っ!?」

 突然の列屋の変化に驚き、拓己は驚きから動きを鈍らせる。
そこを烈弥は見逃さない!

「《ダンシング・スピア!!》」

「ぐあぁぁっ!?」

 瞬く間に繰り出される5連撃の突きに、拓己はそれを諸に喰らってしまう。
だが、この程度で烈弥の反撃は終わらない!!

(こ、コイツ、何処にこんな底力を!?)

「ハァアアアアアーーーーーッ!!!!」

「うぐぁっ!」

 続けて繰り出される息つく間もない連続攻撃。
その疾風怒濤の攻めは先程までのパワー、そしてスピードを大きく上回り、拓己に反撃の隙を与えない!

「く、クソッ!」

 そんな中で拓己は反撃の糸口をつかもうと、ブラックホールを生成して烈弥との距離を取ろうとするが……


「ッ!」

「な!?」

 だが驚愕の声を上げたのは拓己の方だった。
ブラックホールが生成されるその瞬間、烈弥は急速に方向転換し、瞬く間に背後に回りこんだのだ。

「《ディメンション・スタンピード》」

「ガハァァァァッ!!!!」

 背後から繰り出された6連撃の突きが拓己に穿つように打ち込まれる!
その強烈な連撃に、拓己は多大なダメージを受け、一瞬のうちに全身はボロボロとなり、呼吸は虫の息と化す。

「コレデ、オワリダ!」

 そしてそんあ拓己を静かに見据え、烈弥は拓己の身体を上空に蹴り上げ、自身の持つ最大の技の構えを取る!!





「れ、レオ……乙女さん……」

 カニが縋るようにレオ達を見詰めるが二人は苦々しい表情を浮かべるばかりだった。

「だ、駄目だ……今度こそ、避けようが無い」

「あんな状態じゃ、空でも飛ばない限りは……」




「……だ…た……ぉ」

「え?」

 意気消沈する中、突然拓己が何かを呟き、レオ達、そして烈弥とその仲間である和人達は不意に拓己を見詰め直した。










「飛ばなきゃ避けられないなら……飛べばいいんだ!!」

 一際大きな声を上げ、拓己は自身の身体に残った気を一気に高め、そして……

「うおぉぉぉぉーーーーーーーーーっ!!!!」





「な……!?」

 その光景を見た審判が……。

「ま、まさか……!?」

「嘘だろ!?」

 レオが、乙女が……。

「こ、こんな事が……」

「馬鹿な?」

 和人が、景一が……。

「ひ、人が…空を!?」

 そして列弥が驚愕の声を上げる。



拓己の背から生えたあるもの……翼に!!



「き、気で翼を!?」

「これが俺の切り札《エナジーウィング》だ!!」

 気で生み出された翼を広げ、拓己は空中で静止、烈弥の槍を回避してみせる!

「喰らえぇぇーーーーっ!!」

「ガッ……!!」

 そしてそのまま一気に突っ込み、驚きから冷め切れない烈弥の顔面……牽いては急所である人中に蹴りをぶち込んだ!!
ここに衝撃を受けてしまえば人間は少なくとも数秒の間まともに動けなくなってしまう。そして……

「今度こそ終わりだ!!」

 そして拓己は本当の意味でフィニッシュを決めるべく烈弥を抱えあげて翼を羽ばたかせ、一気に上昇。上下逆さまの状態で烈弥の両腕を交差させて掴み、直後に体勢を反転させ両脚を自分の足でフック。
その状態でリング目掛けて一気に落下する!!

「《フォーディメンションキル!!》」

 かつてタッグマッチトーナメント予選で竜命館拳法部の誇る精鋭、村田をマットに静めた拓己の必殺技が、今再びマットに決まった!!



「が……は……ぁ…………」

 そして、その技を受けた烈弥は、僅かに呻き声を上げ、マットへと倒れ込んだ。







「…………勝者、小野寺拓己!!」

 烈弥の失神を確認し、審判が拓己の勝利を宣言する。
それを聞きながら、拓己はフラフラの身体に鞭打ちながら、静かに右腕を高く掲げたのだった。




○小野寺拓己―神城烈弥●
決まり手・フォーディメンションキル

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