東方蒼天葬 参

□天災
1ページ/2ページ

天災

 一夏達と命蓮、そして暴走した箒の入り乱れる戦いが決着を迎える少し前、
旅館の広間において、一夏の出生を語った束を前にしながら、千冬は彼女と睨み合う。

「さてと、束さんの説明タイムはこれで終〜了ぉ〜〜。
ここまでで何か質問ある?今束さんは結構ご機嫌だから答えてあげるよ♪」

 緊迫した空気の中で、尚も異質な気配を醸し出す束の姿に誰も声を出せず、そして動けない。





ある、たった一人の人物を除いては……。





「……っ!」

「ん?……ガッ!」

 不意に、一瞬の内にある人物が動き出す。
そして束がその人影に目を向けたと同時にその人物……白蓮は束の頭を鷲掴み、瞬く間に壁へと叩きつけてしまった。

「よくも……よくも、命蓮を…………!!」

 普段の温厚を絵に書いたようなそれが嘘のように、|表情《かお》を阿修羅の如く憤怒に染めた白蓮は束の頭を捕らえた手に万力の如く力を込め、そのまま彼女の身体を持ち上げていく。

「痛いなぁ……。何?折角弟生き返らせてやったのに、くれるのは感謝の代わりにアイアンクロー?
さすが妖怪僧侶、訳が解らないy『黙りなさい!!』…………」

 凄まじい握力で締め付けられているにも拘らず、ふざけた態度を取り続ける束。
だが、激昂する白蓮はそんな事も気にせずに怒声を上げる。

「反魂の術……人一人生き返らせるその術を行うにはそれ相応の対価が必要とされるもの。
ましてや、それが命蓮ほど徳の高い者となればその対価は人間一人どころでは済まない筈…………!
命蓮を生き返らせるために一体どれ程の犠牲を強いてきたのですか!?」

「んー?ざっと血液を成人男性約百人ぶんでしょ。あと、魂はきっかり五百人分ね。
いやぁ、カナダの研究施設が試験管ベビーたくさん作っていてくれて助かったよ。
お陰で施設一つ吹っ飛ばしただけで簡単に材料が手に入ったんだから」

「なっ……!?」

 ヘラヘラと笑いながらさらりととんでもない台詞を言ってのける束に周りにいる全員が絶句する。
そして驚愕、あるいは恐怖を覚える。
目の前にいるこの女は大量殺戮を行ったと自ら語っているのだ。
そして、それをまるでコンビニに買出しに行ってきた事を何気なく話すような口調が彼女の異質さにより拍車を掛ける。

「くっ……!アナタという人は、命蓮にどれ程の業を背負わせて……!!」

「良いでしょ、別にさ?業って言っても、有象無象が少し減っただけだs……」

 束の軽口はそこで止まった。
言い終わる前に白蓮による怒りの鉄拳が顔面に叩き込まれたのだ。

「この、外道……!貴様の勝手で、命蓮を……私の、最愛の弟を…………!!」

 怒りの余り唇を震わせながら、白蓮は搾り出すように声を発する。
束を殴ったその一撃に手加減は無かった。最愛の弟、命蓮を最悪の形で蘇らせ、途方も無い業を背負わせた存在への怒りは白蓮の自制心を失わせるには十分すぎるものだったのだ。

「…………痛いなぁ」

 だが、束はまるで動揺するそぶりも見せない。
それどころか、顔面に押し付けられた白蓮の拳をまるで鼻先に止まった虫でも見るかの様に眺める。

「あーあ、鼻血出ちゃった。……ちょっとムカついたなぁ」

 束は静かに白蓮の腕に手を伸ばし……。

「だから嫌いなんだよ、お前ら……!」

 そして、そのまま白蓮の腕を凄まじい力で捻り上げた!!

「っ、ア゛ぁァァァーーーーーーーーッッ!!!!」

 室内に絶叫が響き渡る。
白蓮の右腕はありえない方向に曲がり、さらにそこから『ベキベキッ』と嫌な音が鳴った。

「姐さん!?」

 白蓮の悲鳴に重なる一輪の叫び声……それが合図だった。

「咲夜っ!美鈴っ!」

「「はい、お嬢様!!」」

 真っ先に動いたのはレミリアと咲夜。
更に続いて他の幻想郷メンバーも続いて束を取り押さえるべく飛び掛かるが……。

「うざいって、言ってんだろ……!」

『っ!?』

 暗く、そして敵意に満ちた声色。
直後に束の瞳が再び金色に光り、凄まじい量の魔力の風が束の身体から吹き荒れ、飛び掛かってきた者達を弾き飛ばした。

「た、束……な、何なんだ、その魔力は?」

「黙っててごめんねちーちゃん。私、頭脳も然る事ながら他の面でもオーバースペックなんだ。
それこそ、万事全てにおいてね…………」

「……っ!?」

 思わず千冬は後退る。
初めてだった……つい数年前まで親友だった束がだす圧倒的な威圧感を見た事。
そして、それが自分に向けられ、心底から恐ろしいと感じてしまったのは。

「ちーちゃんとは、まだ色々お喋りしたい事があるから。だからちょっと待ってて。
先にココにいる邪魔なもの、全部片付けるから」

 そう言って束は両手に魔力を集め、そこから魔力弾を作りだす。

(な、何だこの魔力は!?い、今まで感じてきたどんな力より強大過ぎる!!)

 自分の作る魔力弾とは比べ物にならない程の魔力が掌に集まり、巨大かつ高純度の魔力の塊。
これが直撃しようものなら人間はおろか妖怪の肉体でも無事では済まない事は想像に難くない。
いや、直撃せずとも魔力弾を爆ぜさせれば今居る広間など簡単に吹っ飛んでしまう。

「や、やめろ!ココには無関係の生徒達もいるんだぞ!?」

 慌てて束を制止する千冬。
しかし、束は顔色一つ変える事無く一言だけ、こう言い放った。










「……だから何?」










 そして、魔力弾が束の手を離れた。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ