東方蒼天葬 参
□絶望の差×希望の援軍と決断(前編)
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絶望の差×希望の援軍と決断(前編)
「後もう少しで例の合流ポイントだ!皆頑張れ!!」
戦闘空域から少し離れた上空、弾を始めとした専用機持ち達はIS学園側の救助部隊と合流するべく、バスを追撃する5機もの無人機と交戦しながら移動を続けていた。
「この、鉄屑……しつこいんですよ!こっちが下手に撃墜できないのを良い事に!」
「わざわざバスまで狙ってくる辺り、本当趣味悪いんだから……!
なんか前よりかなり堅くなってるし……、しかも魔力まで感じると来てる」
バスの防衛に敵機の地上への墜落阻止と、足枷が非常に多い状況。
更に無人機は魔力強化されており、文と椛は苛立ちを募らせている。
バスを運ぶ傍らで、弾達も援護射撃をしてくれてはいるものの、戦況は決して良いものではなかった。
「ん?」
そんな時、不意に椛の纏う白牙のセンサーが無人機部隊から発生するある異常を捉えた。
即座にそれを解析し、ウィンドウ画面に詳細が映し出されるが……。
「機体内部にエネルギーの増加反応?……ま、まさかっ!?」
その反応の意味を理解した直後、椛の表情かおが突如として青褪める。
エネルギーはそれを排出する事無く、機体内部で増大し、蓄積し続けている。
しかし、如何にISといえどエネルギーを蓄えていられる容量には限界というものがある。
そして溜まりに溜まったエネルギーが機体の容量限界を超えた時、何が起きるかというと……。
「ま、まさか……自爆する気!?」
『っ!?』
椛の言葉に文達は絶句する。
無人機に使用される多大なエネルギー、加えて貯蔵された魔力……これらが爆発すれば民間用の大型バスなど簡単に木っ端微塵になってしまうのは火を見るより明らかだ。
「こ、こうなったら……」
苦々しくも表情を歪めつつも、文は覚悟を決めたように目を鋭く細め、妖力を一気に高める。
「椛、私がコイツらをフルスピードで全部纏めて足止めするから、アンタはバスの守りに徹しなさい!」
「……一人でやるつもりですか?アナタのキャラじゃないでしょ、そういうのは」
「そんなの分かってますよ。正直な所、さっさと逃げたくてしょうがないですよ。
けどね、私は自分が後味悪い思いして、その上『他の生徒を見捨てて逃げた外道鴉』なんてゴシップに晒されるのはもっと御免なんですよ!」
「……ったく、アナタって人は」
“普段ゴシップ同然の記事ばっかり書いてる癖に”と出掛かった言葉を飲み込み、椛は文の意志を汲んでバスの方へと退く。
「さてと、それじゃあ……」
椛の後退を確認した文は覚悟を決め直し、無人機を目掛けて突撃体勢に入る。
そして……
「行きm『格好付けてる所悪いけど』……へ?」
突如、どこからともなく声が響き、直後に一機のSWが現れ、無人機を蹴り飛ばした。
「コイツらは私が片付けてやる」
現れたのはSWを纏い、バイザーで目元を隠した少女。
炎魔の戦闘部隊隊員、天野晴美あまの はるみの姿だった。
「アナタは……?」
「炎魔の者だ。後は私達に任せろ……!」
晴海は獲物を目の前に捉え、舌舐めずりしながら、両手に携えたビームガンを構え、突撃してくる5機を見据える。
「ちょ、ちょっと待って!あれは自爆寸前……」
「んなモン分かってる……ぶっ壊れろォっ!」
文の止める間も無く、獣の如き咆哮と共に二丁の銃が火を吹く。
放たれたビームの弾丸は5機全てのコアを正確に撃ち抜き、瞬く間に無人機を破壊して見せた。
「よーし、取って来いジンヤ!」
そして機能を停止し、墜落していく無人機の落下先に、一人の人影が待ち構えていた。
「俺は、犬じゃないんだけど……!」
現れた茶髪の少年……晴美と同じく炎魔戦闘部隊の隊員、神埼じんざきジンヤ。
彼が左腕を落下してくる5機の無人機に向けて掲げたその直後、無人機は物理法則を無視したように空中で制止した。
「ハァァァァァッ……!」
そして、ジンヤが気迫を込めるように声を出しながら腕に力を入れると同時に5機の無人機は、まるで弾き飛ばされるように上空へと昇っていく。
「ナイスよジンヤ。……良い位置だ!」
自身の居る高度大きく超えて上空へと昇っていく無人機を眺め、晴美は武器をバズーカに変更してそれを構え、引き金を引く!
放たれた砲弾は見事無人機に直撃し、無人機部隊は成層圏付近で大爆発を起こしたのだった。
「自爆するなら、人のいない所でやれっての。……ん?」
「す、凄い……」
「こ、コアだけを正確無比に撃ち抜くなんて……。下手をすれば誘爆の危険もありましてよ……」
「あの男、一体どんな武器を使ったんだ?あんな芸当AICでも出来ないぞ」
爆産する無人機を身ながら吐き捨てる晴海だったが、バスがその場で静止してしまっている事に気づく。
自身の銃撃とジンヤの能力に驚いて呆然と立ち尽くしてしまっていたのだ。
「何やってんだ!さっさと下がれ、簪!!」
「は、はい!」
思わず名指しで一喝され、簪は慌てて踵を返して他のメンバー(護衛の文と椛も含む)共々その場を離れていった。
(……あれ?何であの人、私の名前を?)
ほんの些細な疑問を残しながら……。
「更識の子には極力接触しないんじゃなかったの?」
「あ、いけね」
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
「勝負ありだね、ちーちゃん。どうだった、束の間の好勝負感は?
でも、ごめんね。私ってばちーちゃんより強いんだ」
「かはっ……ぅ…ぐ……!」
指に付いた血を拭き取りながら千冬を見下ろし、束はニコニコと笑いながら千冬に近付いて行く。
そんな束の不気味な雰囲気に呑まれ、千冬は脇腹の激痛に苦しみながら後退さる。
「あれ、どうしたのちーちゃん?普段だったら、すぐにでも反撃する筈なのに」
白々しい態度で束は千冬に顔を近付け、覗き込むように彼女の顔を見詰める。
「ひっ…………!?」
吐息が掛かるほど束の顔が自分の顔に近付く。
その瞳は金色に美しく輝きつつも、奥底は何よりも黒い。
……まるで彼女の内に秘めたドス黒い感情を表すかの如く、見る者を飲み込んでしまう凄みを秘めたそれは、千冬の中にある恐怖の感情をより強くしていく。
「や、やめろ……来るな……!来ないでくれ!!」
「あれぇ〜〜?もしかしてちーちゃん、怖いの?ねぇ、怖いの?
でもさ、私の事を裏切ったんだから、この程度じゃ済まないよ……!!」
「ガッ……ああぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!!!」
凄みを帯びた声色で、束は千冬の頭を鷲掴み、万力の如く締め上げながら宙へと徐々に浮いていく。
「私さ、これでもちーちゃんの事、親友だって思ってたんだよ?
ちゃんと友情だって感じてたんだよ。
ちーちゃんだったらいつまでも、どんな時でも私の味方でいてくれるって信じてたんだよ。
いっくんだって、ちーちゃんの弟で凄い才能を持ってたから気に掛けてたんだよ。
なのにさ、いっくんは幻想郷に簡単に馴染んじゃって、
ちーちゃんはそのいっくんに、実の弟に恋しちゃって……、
挙句の果てには私の大っ嫌いな奴等の味方に着くなんて……本当、残念無念失望絶望期待外れの的外れ。
ただで済むと思うなよ、裏切り者が……!!」
「う、うわあああぁぁぁぁーーーーーっっ!!」
圧倒的な力と、それに秘められた悪意が解き放たれる。
それが自身に向けられた時、千冬は最早恐怖を抑える事が出来なかった。
溢れ出した恐怖という感情が悲鳴となり、表情かおは恐怖一色に染まる。
そして、恐怖に支配された千冬の顔面に、束は容赦なく膝蹴りを叩き込んだ。
「ぐがぁあっ!?」
鉄製の鈍器のような一撃に、鼻の骨が叩き折られる。
しかし、束は手の力を緩めず、千冬の頭輪掴んだまま、砂浜へと急降下していく。
「があぁぁぁぁぁっぁっっっ!!」
砂浜に叩き付けられ、千冬はその場に倒れる。
そして、束は倒れ伏す千冬へと静かに歩み寄り、後ろ髪を掴み上げて再び顔を近づけ、千冬の鼻血を流して苦しむ表情を見て不気味に笑う。
「あ〜あ、ちーちゃんったら鼻血出しちゃって。折角の美人さんが台無しだね。
でも安心して、束さんじわじわとなぶり殺し、なんて趣味は無いから。だから……っ!?」
千冬に問いかける束の口が不意に止まる。
その直後、ある人物が刀を構えて束に襲い掛かった。
「セアァァッ!!」
現れた影の正体……魂魄妖夢は刀を振り上げ、束の首を狩らんとばかりにそれを振り下ろす!
「……チッ!」
割って入った邪魔者に束は不機嫌そうに舌打ちして向き直り、振り下ろされた刀を魔力を纏った手で乱暴に受け止める。
「咲夜!」
「任せて!」
しかし、妖夢は動じる事無く咲夜の名を呼び、それに応えるように返答と共に咲夜が姿を現す。
「さ、咲夜……?」
そして、その腕には負傷を追った千冬の身体を抱えられている。
時を止めて束の下から千冬の身柄を奪還したのだ。
「半人にお子ちゃま吸血鬼のメイドか。……邪魔しないでもらえるかな?」
「そうはいかない。貴様のこれ以上の暴挙を許すわけには行かない。今度は私達が相手だ!」
心底面倒臭そうに呟く束に対し、妖夢は戦意を剥き出しにして身構える。
そして、咲夜もまた普段は見せない殺気を隠す事無く出し、千冬を守るように前に出る。
「アナタが如何に危険な存在かは理解させてもらったわ。
生かしておくわけには行かない。全力を以って、アナタを殺す……!」
第2ラウンド、開始…………。