東方蒼天葬〜その歪みを正すために〜

□幻想郷の万屋
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 此処は幻想郷。結界を隔て、現代の裏側に存在するもう一つの世界。
此処では人間、妖怪、妖精、神などが共存する世界でもある。

「さ〜て、今日も開店っと……」

 幻想郷の中にある人間の里、正確にはその近くに存在する一軒の二階建ての店から和服姿の一人の少年が外に出て玄関に『OPEN』と書かれた表札をかける。
少年は肩まで伸ばした髪に引き締まった肉体、そして右頬に刻まれた真一文字の傷跡はその歳に似つかわしくない修羅場を潜り抜けた事を物語っている。
その少年の名は一夏。そして店の看板に書かれている店名は『万屋・ORIMURA』。
そう、ココはかつて霧雨魔理沙に助けられた織斑一夏の営む店だ。
その業務内容は報酬と引き換えに草むしりから妖怪退治まで幅広く手掛ける所謂なんでも屋である。

「幻想郷(ココ)に来て、もうすぐ一年か……」

 幻想郷の風景を眺めながら一夏はそう呟いた。



 一年前、魔理沙に助けられた当初は元の世界に戻る事を望んでいた一夏だったが、「怪我が治るまで静養していた方が良い」と魔理沙からのありがたい忠告により、暫くの間幻想郷で暮らすことになった訳だが、幻想郷という世界は彼にとって余りにも理想郷に近いものだった。
人、妖怪、妖精、神、亡霊……あらゆる種族が共存するこの幻想郷(せかい)、多少危険はあれど人種差別など殆ど無い世界、何よりも自分を『世界最強の弟』としてしか見ない外界と違い、幻想郷の住人達は自分を織斑一夏個人を見てくれる。
一夏にとってそれは今まで感じたことの無い新鮮さを感じさせるには十分だった。

 そう思うと自分が元居た外界が酷く汚れて見えてくる。
ISの登場によって生まれた女尊男卑という歪んだ社会、自分を『世界最強(ブリュンヒルデ)の弟』としか見ない周囲の人間、そこに安らぎがあったのかと聞かれれば正直言って首を縦に振ることなど出来ない。
それでも自分を守り、養い続けてくれた姉の事を思うと望郷の念は少なからず湧いてしまう。

 気に入ってしまった幻想郷、姉のいる外界、相反する二つの想いを抱える内に気付けば怪我が完治した後も幻想郷を離れる事が出来ず、ずるずると答えを保留していく内に一年近くが経過していた。

 そして悩む一方で一夏は魔理沙から教えてもらった弾幕戦やスペルカードルールなどにのめり込むようになり、妖怪退治や異変解決で活躍できるほどの戦士に成長していった。
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