短編

□君と言う存在
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「これはこれは…」


「密お嬢様も大きくなって…」


「いえいえそんな…」


今日は私の家…古雅財閥の立食パーティー。正直気が乗らない。


大人たちが見ているのは「私」ではなく「古雅財閥の密」。


誰も「私」をみない。


私には姉や兄もいない。つまり長子だ。この家では性別に関係なく第一子が家を継ぐことになっている。


昔から親も、


お手伝いさんも、


家庭教師や学校の先生も、


友人も。


誰一人として「私」を「私」として扱ってくれなかった。


「…外の空気でも吸いに行こうかな…」


そう呟いて私はバルコニーに出た。


「………」


夏の薫りを孕んだ緑の風が吹いていた。


「…気持ちいい…」


そのときだった。


♪〜


「…?」


サックス?


何処かから音色が聞こえた。


優しくて繊細で、でも大胆である美しい音色。


それはここから少し離れた保養施設から聞こえていた。


私は居ても立っても居られずに外へ出た。










































































***



「…ふぅ…」


私が外に出ると、音は止んでいた。



「……?」


私に気づいたのか、一人の男性がこちらをみた。


(…あ…)


この人が、吹いてたのかな…?


「君もパーティーを抜け出してきたのかい?」


「はっ、はい…少し、つまらなくて…」


すると男性は、「そうだよね、俺も同じだ」と笑った。


「俺は神宮寺レン。君の事はよく聞いているよ、古雅 密ちゃん」


「ほぇっ、どうして私の名前…」


私の家…古雅財閥と神宮寺財閥は昔から懇意だと教えてくれた。そして、「…その関係で俺も招待されたのだけど…つまらなくて、ね」と彼は舌を出した。


「…でも、神宮寺さんh「レンでいいよ。年も近そうだし」


「…レンさんは…女性に好かれるじゃないですか。さっきも、村石グループの方と…」


「彼女も魅力的だが、俺は本気にはならない主義でね…」


なんでだろ。


彼は、


読めない。


そこに存在しているのに読むことが出来ない。


不思議な、


謎の存在。


「…だが、今本気になった」


ぐいっ


「!?」


不意に腕を掴まれた。


「…どうやら…俺は君に…君と言う"存在"に対して"本気"になってしまったようだ…」


ああ。


この人は、


私を私としてみてくれる…。


そう思うと泣けてきた。


「ぁ、オイオイ大丈夫かぁ?俺は可愛い女の子に泣かれるの、苦手なんだよ…」と彼はハンカチを取り出してくれた。


「…すみま、せん…」


「謝ることはないさ。目の前で女性が悲しんでいたらそっと涙を拭いてあげる。男性としての基本じゃないか」


レンさんがそう言ったときだった。


「ぁ、兄貴からメール…『早く戻れ』、か…面倒だな」


彼は携帯を仕舞い、私に言った。


「密ちゃん、それはあげるよ」


「…あの、レン…さん…」


「ああ。また会えるさ、きっと」


その約束は果たされた。


9ヵ月後、


早乙女学園で、


アイドルと作曲家として――…。
 

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