廻らないポラリス

□水しぶきで汚した身体
1ページ/3ページ


翌日。
僕はまた、彼女のいる空き教室を訪れていた。

「懲りないね、君も」
「はい。こんにちは…、奏羽先輩」
「…ああ」

そっと、名前で呼んでみる。
何だかくすぐったい気持ちで心地よかった。
彼女は少し憂いのある笑みを浮かべたけれど。

まあ兎に角、昨日は名前だけでも教えてもらえた。
それは手放しで嬉しい。
けれどそれ以上、僕が何も知らないのも事実で。
こんなにガードが堅いと心配になる。
僕なんかが、彼女を知ろうとしていいんだろうか。
僕なんかが、彼女の笑顔を望んでいいんだろうか。
覚悟は、した筈なのに。
僕が弱いせいで、迷う。


「どうかしたかい?」
「いえ。あ、それで今日はもう一つ用事があるんです」

鞄を開け、目当てのものを取り出す。
僕のじゃない、薄いピンクの花柄のシャープペンシル。

「…これはまた可愛らしいシャーペンだな」
「はい。拾ったのですが、先輩か月子さんの物だろうと思いまして」
「んー、私のではないね」
「そうですか。なら月子さんに聞いてみます」

ごそごそ。
シャープペンシルをしまいかけて、止めた。

「青空君?」
「先輩も一緒に、月子さんにに聞きに行きませんか?」
「…何故」
「僕が貴女と一緒にいたいからですよ」
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ