廻らないポラリス

□願えることもないからと
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「よう」
「一樹。珍しいな」
「お前何時までここにいんだ?もう下校だぞ」
「ああ、そろそろ帰るよ」
「その前に、ちょっと来いよ」
「どこに?」
「企業秘密だ」

薄暗くなった教室。
夏が近づいているせいか、まだ闇には程遠い。
そんな時間に一樹が来た。
いつも通り何か企んだように笑って。
…一体どこに連れて行く気なんだ…



「さあ、どうだ!」
「……わあ」

思わず感嘆の声を漏らす。
連れて来られたのは、屋上庭園だった。
七夕飾りが設置されている。
しかも例年より若干派手な気がする。
張り切ったんだろうな。

「綺麗じゃないか」
「だろ?お前のことだから見に来てねぇだろうと思って」
「まあ、図星だな。礼を言うよ。いいものが見られた」
「礼はまだ早いぜ?」

にやり。
また笑った彼の手には一枚の短冊。
そうか、自由に書けるんだったな。

「…ああ、ありがとう」
少し迷って、受け取る。
私の願うことは、もう叶わないとわかっているんだ。
だから。

「どこにでも吊していいのか?」
「早っ!何書いたんだ?」
「見るか普通」
「いいだろ。何々…"世界平和と安全と幸福を祈念"?相変わらずなんつーか…」
「何」
「いや」
「…飾るぞ」
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