廻らないポラリス

□試しに笑ってみようかなんて
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「颯斗君!」
町で買い物をした帰り、バス停で聞きなれた声が僕を呼ぶ。
大きな荷物を持った月子さんがいた。
それから、後ろにはいつもの2人。

「おや、月子さん、東月君、七海君。帰省の帰りですか?」
「うん!颯斗君は買い物?」
「ええ」

少し久しぶりに会った月子さんは、相変わらず純粋な笑顔を浮かべていた。
…今はあまり会いたくなかったというのが本音だ。
実家からそんなに笑顔で帰って来られるなんて、僕には眩しすぎる。
けれど別に月子さんたちが悪いわけでもないし、東月くんとは元々何度も話したことがある。
これは、僕の問題だ。
ちょうど来たバスに乗り込みながら、話を続けた。

「そうだ青空、俺今回実家で紅茶のシフォンケーキ作ってみたんだけど、思ったより香りが立たなくてさ」
「えっ、美味しかったよ?」
「俺もそー思うけどなあ?」
「はいはいありがとう。で、どう思う?」
「そうですね…茶葉によって香りが違うので…アールグレイがお勧めですよ。それかいっそ、アッサムを使ってミルクティシフォンケーキにするのも良いのでは」
「なるほど…」
「美味しそう!」
「錫也、それ今度作ってくれよ!」
「じゃあ来週当たり試作するか」

東月君と七海君は、陰では騎士と呼ばれている。
マドンナを守る騎士、らしい。
そういえば前に2人は奏羽先輩に厳しい目を向けていたことがあった。
今なら理由がわかる。
学園の姫は手が届かない高嶺の花、何かと狙われやすいのはマドンナの方なのだ。
彼らはただ月子さんを守りたいだけなのだろう。
…奏羽先輩の騎士は、白銀先輩や会長…なのだろうか。
1年の差がなければ、僕もその中に入れたんだろうか、なんて。
あの日床に叩きつけられたペンケースの意味に見当もつかない僕は、そんなことを考えてしまうのだ。
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