廻らないポラリス

□見たくないものにも手が届きそうだ
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白銀先輩に言われ、皆の帰った生徒会室に残る。
まだ熱の残る部屋、白銀先輩がソファに大袈裟に座り込んだ。

「…奏羽が最近休んでることは知ってるよね」
「はい。僕にお土産をくれた辺りからだなと思っていました」
「さすが、ご明察」

答えながら、先輩の正面に座る。
俯いているせいで長い髪が顔を覆っていて、表情が見えない。
奏羽先輩が学校に来なくなったことは僕も気づいていて、気にしていた。
白銀先輩の様子から、それはあの日の涙に関係しているのだろうと思っていた。
いつだったか言われた”覚悟”という言葉が脳裏にちらつく。

「予想してるだろうけど、これから奏羽の話をするよ」
「はい」
「でも、全部は話さない。俺は事実と俺が感じたことしか言えない。奏羽のことは、本人と話して」
「わかりました」
「端的に言うよ。……奏羽は俺の幼馴染で、俺らにはもう一人幼馴染がいた。ソイツは、奏羽の恋人だった。そして…、中3の終わりに、自ら命を絶った」
「えっ…」

言葉を、喪った。

「ソイツは元々難病を抱えていてね。幸せなうちに死にたかったんだってさ。…俺たちの気持ちだって、わかってたはずなのにな。そんで奏羽はショックで高1は学校に来なくて、だから実はダブってる」
「………そう、だったんですか」
「だから奏羽は大事な人を作らないようにしてる。けど生徒会も番長も大事になっちゃった。今学校に来ないのは、そこらへんだろうね」

白銀先輩が顔を上げた。
ゴーグルを外して、揺らぐ瞳で僕をじっと見つめる。

「ねえ番長、奏羽を、幸せにしてやれる?俺は当事者だから、一緒に苦しむことしかできないんだよ」

奏羽先輩を想って、胸が詰まる。
それから、目の前の先輩も。
彼らはそんな悲しみを抱えて、笑っていたんだ。
僕だって不器用にしか笑えないような人間だけれど。
せめて今は、素直な気持ちを口に出そう。
僕の大切な人たちへの気持ちを。

「……僕は、幸せがどういうものか、ずっとよくわからなかった。でも僕が笑えるとき、奏羽先輩がよく傍にいるんです」
「…うん」
「だから、これからもそうやっていたい。一緒に笑えるようにしたい。そのために、頑張りたい」
「――そっか。…明日の放課後もさ、残れる?奏羽のとこ、行こう」
「っはい!」
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