廻らないポラリス

□その先で見えるものは
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1回の呼びかけでは出てこないかもしれないと思ったけれど、すぐに扉が開く。
職員寮の廊下に男子生徒があんまりいると良くないから、って言い訳みたいに部屋に上げてくれた。

「…それで、何の用」
「学校来ないから、こっちから会いに来ちゃった」
「そういえば体調などは大丈夫ですか?」
「それは問題ない。ありがとう。…ちゃんとわかってるさ、来た理由くらい。颯斗はもう桜士郎から聞いて来たね?」
「はい」
「まあ、概ねその通りだよ。あいつがいなくなって…私は私を責めた。幸せになりたくないって。そうやっていて、遂に動けなくなったんだ」
「どう、して」
「……だって、怖いじゃないか。あいつがいなくなったのが私のせいじゃないなら、私はあまりに無力だろう…恋人だったのに、してやれたことなんて、ないじゃないか」
「それを言うなら俺もじゃん…一人で抱えるなよ…」
「わかってるよ、でも、一緒に持てるほど、私は現実を認められなかった。私があれ以上何もできなかったと認めたら、あいつの死を、受け入れなきゃいけなくなる……」

涙の膜が厚みを増していく。
ぽたり、涙が落ちるのと一緒に、言葉が落ちていく。
やっと見ることができた涙に胸が締め付けられて、僕は口を開いた。

「それでも、その方は、幸せだと言ったんでしょう…。その幸せは紛れもなく、先輩のおかげですよ」
「でもそれで満足するなら!あいつは幸せにだなんてならなければっ………いや、それは、それでは、私が嫌だ…」

いやだ、と口だけが動いて、しばらくの沈黙。
奏羽先輩が少しだけ目元を緩ませて、さっきの涙みたいにぽつりと言葉を落とす。

「…ああそうだ、ずっとあいつのためって言い張ってきたけれど…これは、最期まで足掻きたかった、私の我儘だ」
「……”私”じゃない、それは俺もだ。当たり前だろ、幼馴染だったんだから」
「…うん」

ぼろぼろ、ぼろ。
堰を切ったように奏羽先輩が泣き出して、白銀先輩もゴーグルを外して目元を抑える。
第三者でしかないはずの僕にも、込み上げてくるものがあった。
ひとしきり泣いた先輩が、少し幼く見える笑顔を浮かべて僕を見る。

「………頼むから、颯斗は、先にいなくなるなよ。せめて、私に足掻かせてくれ…」

その言葉は、僕を大切に思ってくれている証明。
手を握って、目を見つめて、僕は誓うみたいに頷いた。
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