廻らないポラリス

□星座を指で紡いで
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***

数秒、いや、もしかしたら数分、僕は携帯画面とにらめっこ状態だった。
僕が生徒会室に行かなくなってから初めての、奏羽先輩からの連絡。

“ 部屋は開いている。 ペンギン ”

きっとこれは手を差し伸べてくれているのだということに気づけないほど僕は馬鹿ではない。
ずっと複雑な気分でいたことは事実だ。
この学校を導いていくなんて、僕にはできない。壊すくらいなら離れてしまえば良い。
だけど。
誰か、僕が笑えていた誰かと、会いたい。
まるで見透かすかのような奏羽先輩の文面に、僕はどんな表情をしているんだろう。
それでもやはり、居場所を探すかのように、僕の足はあの空き教室へ向いていた。



「ああ、颯斗。すこし久しぶりだね」
「……ええ」
「そんな緊張するなよ。君を説得しようとかは思っていない」
「…そう、なんですか」
「ただここはまあ…秘密の場所だ。何を話したってここで完結する。だから、吐き出して深呼吸するくらいならできる。颯斗の息の詰まった顔は…私もつらいから」
「…奏羽先輩」

いつもの部屋、いつもの言葉遣い、いつもの恰好。
僕がこんな状態でも、奏羽先輩は、この部屋は、何も変わっていなかった。
だからだろうか、ぽつりと、話しだしていた。
僕の過去のこと、生徒会長になれない理由。
話し終わったら、先輩はとても悲しそうな、泣き出しそうな顔をした。

「一瞬、君を借りる」
「え…」

ぎゅう。
時が止まったような気さえした。
奏羽先輩が僕を強く抱きしめてくれていた。

「……奏羽、せん、ぱい?」
「颯斗はここまで本当に頑張ってきたんだね」
「そんなこと…」
「あるさ。颯斗なりに頑張ってきた。だけど、少なくともこの学校ではもう諦めなくていい…。自分の大切なものを大切にしていいはずだ。それだけの力は、もう、ある」

もう一度そんなことないと言おうとして、息が震えた。
何かを口に出せば、涙まで零れてしまいそうだったから。
ふわりと僕から離れた奏羽先輩が、ポケットから何かを出す。

「だって、颯斗は一人じゃない。私も一樹も桜士郎も、月子も翼も…みんながいる」

僕の手のひらに置かれたのは色とりどりの飴。
いちご、パイナップル、ぶどう…、さっき名前が挙がった面々の髪色を彷彿とさせる。
胸がいっぱいになって、僕は一言お礼を言うしかできなかった。
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