廻らないポラリス

□次の季節の星座はもうすぐそこ
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「颯斗は、とてもあたたかいピアノを弾くんだね」
「え…」

演奏会が近づいて来た放課後、今日はどうか練習に付き合ってほしいと無理を言ってしまった。
けれど奏羽先輩は快諾してくれたうえ、少し手を止めた僕にそんな言葉をくれた。
ほとんど言われたことのない、しかも先輩からの褒め言葉に、心が跳ねる。
…やっぱり来てもらって、良かった。
僕は未だにピアノを弾く手が震えることがあるから、誰か大切な人に傍にいてほしくて。
それで一番に浮かんだのが奏羽先輩だった。

「そう、ですか?」
「うん。私はピアノは詳しくないけど、繊細で、優しい、それでいて力強いと感じるよ」
「ありがとうございます…」
「なんだろうな、金平糖のような?」
「こ、金平糖?」
「たくさんの優しい色が詰まっているものを言い表したかったんだが…国語は苦手だ」

少し拗ねた声で困ったように笑む奏羽先輩に、僕も笑みがこぼれる。
僕からすれば、あたたかいのは、優しいのは、貴女の方だ。
一緒にいると穏やかで、でも時々胸がきゅっとする。

ああ、きっと、この気持ちは。
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