廻らないポラリス

□星座盤から眺めるは
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やっとまともに学園に帰ってこられた日の夜、もうみんな帰ってしまっているだろうかと思いつつ、生徒会室に足を向けた。
と、会談の中ほどまで来て、電気がついていないことに気づく。
…誰も、いないか。
僕が勝手に期待していただけなのに、なんだか寂しくなってしまって。
そのまま、ついあの空き教室へ向かうと、今度は明かりが漏れている。

「……奏羽先輩?」
「あれ、颯斗。驚いた、どうしたこんな時間に」
「ちょうど帰ってきたところだったので、誰かいるかなと生徒会室に寄ってみたところだったんです」
「ああ、今日は桜士郎が差し入れをくれてね。切りが良かったから、そこで解散になったんだ」
「そうだったんですか」

いつの間にか張りつめていたこころが緩むのがわかる。
促されるままカバンを置いて、窓際に座っていた奏羽先輩の隣に立つ。

「…少し、お話しても?」
「勿論。……連絡をくれたことだろう?」
「はい。先輩のことだから、もう察しているだろうなとは思っていました」
「…ああ」

先輩は眉根を寄せて困ったような表情で、それでも笑って頷いてくれた。
すみません、そんな顔をさせたいわけじゃないんです。
僕は貴女の笑顔が好きで、だからこそ、こうして伝えたくて。

「僕は、奏羽先輩が好きですと、お伝えしたかったんです」
「……っ、うん…」

先輩は今にも泣きそうな顔を一瞬だけ見せて、すぐに下を向いてしまった。
困らせることは、わかっていた。
だから言葉を続ける。

「今すぐどうこうって話じゃないんです。ただ、僕はこの気持ちを貴女に伝えたくて仕方がなかった。嬉しいことがあった日に、家族に報告する子どもみたいに」
「……颯斗」
「貴女を大切に想う後輩がいるのだと、今はそれだけ知っていてほしいんです」
「…そう、か。ありがとう…」

つう、と奏羽先輩の頬を流れた涙が、外の光を反射する。
ハンカチを差し出したら、ちょうど修学旅行のときにもらったもので。

「…あ、これ…」
「偶然ですよ?流石に」
「ふふ、そうか」

先ほどよりずっと嬉しそうな、泣きそうな笑顔。
背景には、僕が先輩の名前さえ呼べなかったあの日と同じくらい綺麗な星空が見える。

「奏羽先輩。今日は、星が綺麗です。一緒に天体観測しながら、帰りませんか」
「……ああ、ぜひ」

ありがとう、ともう一度声がかけられる。
返事する代わりに、僕は微笑む。
僕は貴女のおかげで、今、こんなに笑っていられるんですから。
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