強く儚く在るために

□肆
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「…んで、用はなんだ?」


なんか忙しいらしい土方に急かされている。


なのでこちらも急いで喋ることにした。


「俺の刀を返せ」


「あぁ。…って、は?」


「は?ってなんだよは?って」


「それは断る」


「なんでだよっ…!」


思わず床を叩く。


「刀を持ったらお前は逃げ出しかねんだろう」


「はぁ!?」


何を今さら言ってんだよこいつは。


まだ信じてねぇってか。


とっくに逃げるのは諦めたっつの。


その旨を土方に伝えたが、彼は首を縦に振らなかった。


「隊士を斬られたら困るんでな」


「斬らねーよ!無駄に人を斬る趣味はない!」


「その気がなくてもなぁ!向こうからふっかけられたら、応戦するだろーが!」


「しません〜!刀使う程、俺は弱くないんで!」


「はぁ!?それは自分が強ぇって言いたいのか!」


「あたりめぇだろーが!隊士20人が刀でかかってきても、こっちは素手で勝てるわ!」


「てめぇ…もう一回言ってみろ!」


「あぁ、何回でも言ってやるよ!」


という具合に喧嘩が始まった。


「まぁまぁ、土方さん。呉羽もこう言ってることだし、刀返してやれば?」


「あぁ!?なんだ原田!?なんか言ったか!?」


「い、いえ〜…何も……」


原田が仲裁に入ってくれたが、土方に一喝された。


そして言い合いになっていたせいで、俺は力が暴走するということを忘れていた。


「俺はもう逃げねぇって言って――」


突然、目の前が点滅し始めた。


呼吸が荒くなる。


「…う、っはぁ、はぁ、ぁあ…」


「おい、呉羽どした?」


「呉羽?」


原田や先程まで張り合っていた土方までもが、急な俺の様子に慌てふためく。


ヤ、ヤバい…!


鬼の姿になっちまう…!


意識が朦朧としながらも、土方の部屋を見渡す。


すると、俺の刀が置いてあるのを発見した。


俺はそこにめがけて体を引きずり、刀に触れる。


「…っはぁ、はぁ、っ…は」


呼吸が整い、意識を取り戻してきた。


「夜桜(やおう)……ありがと…」


力を押さえてくれた刀の名前を紡いだ。


俺は土方と原田を盗み見た。


彼らは目を見開いて俺のことを見ていた。


その行為から俺のいつもと違った姿を少しでも見たことが伺える。


「……今見たことは、全て忘れろ」


俺は、さりげなく夜桜を持って部屋を後にした。



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