強く儚く在るために
□肆
3ページ/3ページ
原田は寝床につくまえ、今日の出来事を思い出していた。
今日の出来事とはいっても、主には呉羽のこと。
最近、ぼーっとしてることが多かった。
もしかしたら熱かもと思い、試しに額を触ってみたが全く問題なかった。
むしろ…冷たかった。
彼奴はやはり変だ。
新選組に捕まったときも、あんなにきつく縛っておいた縄を簡単に引きちぎるし、千鶴のことも羅刹のことも知っていた。
そもそも、呉羽が捕まったときもあの羅刹を皆殺しにしていたと聞いた。
それに千鶴にはやたらと優しい。
同じ女で昔会ったことがある知り合いとはいうが、千鶴自体はそのことを覚えてないのでほぼ初対面に等しいはずだ。
なのに、原田たちとの扱いの差が酷すぎた。今でこそ、そんなに変わらないが。
それに、呉羽よりも背が大きくがっちりしている永倉を蹴りであんなに飛ばした。殴っても同様。
見た目はとてもそんな力があるとは思えないくらい華奢だ。
だから『刀を持った隊士二十人を素手で倒せる』というのも、あながち間違いじゃないだろう。
……それを踏まえた上で、今日のこと。
刀を返して欲しいと言った呉羽を土方さんのところへ連れて行った。
予想はしていたが、土方さんは反対し呉羽と言い合いになった。
そこまでは、日常茶飯事といえばそうだ。
突然呉羽の様子がおかしくなった。
頭を抑えだしたと思ったら呼吸が荒くなっていた。
心配になり声をかけるが、返ってくるのは激しい呼吸音だけ。
呉羽が部屋を見渡しているときに原田は見た。
彼女の瞳が金色に輝くのを。
普段の色は透き通るような桃色。
だから不思議だったのだ。
呆然とした…というよりは見惚れたの方が近い表現だろう。
呉羽が刀を取りに行ったとき彼女は原田に背を向けた。
そこで見た。彼女の髪の先が、白くなっていくのを。
ただそれは一瞬の出来事で、呉羽が刀に触った途端髪は元の色に戻っていた。
次に彼女の瞳を見たときも、元の桃色になっていた。
夢でも見たかとも思ったが、紛れもない現実ということは土方さんが証明してくれている。
「呉羽って一体何者なんだ……」
その謎は深まるばかりであった。
.