強く儚く在るために

□肆
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信用されてきたのか、見張りが付くことがなくなり、屯所内を自由に歩き回ることが可能になった。


まぁ、一応"小姓"だから原田と行動を共にしている。


不満があるとすれば一つだけ。


「なぁ、原田」


「ん?なんだ?」


「いつになったら俺の刀は返してもらえるんだ?」


そう、俺がここに来て以来、俺の刀は返してもらってない。


刀がないと本当に困る。


俺の刀は代々呉羽家に引き継がれてきた刀で、この刀のおかげで力が暴走しないですんでいる。


だが、もうそろそろ自分で理性が押さえられなくなっているのだ。


力が暴走を始めたら、多分屯所は軽く吹っ飛ぶ。


いや、吹っ飛んでも俺は困らないが、その後だ。


暴走後はしばらく鬼の姿が戻らず、高熱が続く。


幼い頃に何度も経験しているため、あの辛さが分かる。


だから早く返して欲しい。一刻も早く。


「それは土方さんたちが決めることだからな。俺は分からない」


「役立たず」


「うるせぇな」


「だったら自分で直談判してくるから土方の所に連れてけ」


「しょうがねぇな」


原田は何だかんだでつきあってくれる。


あんな言い方をしたにも関わらず協力してくれるのは、何故だろうか。


大人……だからか?


いや、俺もそこそこいい年だが。


「ん?なんだ呉羽?」


考えてたせいで原田の顔を見てしまっていたらしい。


俺は、考えてる人の顔を見る癖があるらしいことを新選組(ここ)に来て知った。


「また、俺のこと考えてたな。そんなに想ってくれてるたぁ、嬉しいね」


「違いますけど?」


「急に敬語になられると怖いんだが」


「まぁわざとだからな」


「えぇ…」


今ではこんなくだらない会話をするようになってしまった。


自分自身、少しここでの生活を楽しんでいる。


まぁ、今のところただ飯にただ宿だから文句ないけど。


仕事っつっても、見廻りという仕事には連れていってくれないし、人を斬ることもそんなにない。


……ほら、人を斬りたいと思ってる時点で理性が崩れている。


集中しないと…。


改めて気を引き締め、土方の所に向かう。


「っておいおい。土方さんの部屋はここだぞ」


後ろから原田の声が聞こえたので振り向くと、部屋を指差して立ち止まっていた。


色々考えてたせいで原田が止まったことに気づかなかったのだろう。


「あ、あぁ」


中途半端な返事をし、土方の部屋の前に走る。


「…お前さ、最近ぼーっとしてること多くないか?」


「…そうか?」


意外な指摘に少々驚いた。


多分、というか絶対、刀を持ってないせいだ。


理性を押さえるのに必死だから、呆けてしまうことが多い。


「熱でもあるんじゃねぇか?」


「ねぇよ」


「ちょっと貸してみ?」


原田はそう言うと、俺の前髪を掻き上げて手を額に当てた。


それだけなら良かった。その後奴は、手の上から自らの額を当てたのだ。


要は、顔がとてつもなく近い。


「……っ」


「あれ?っかしーな。熱ねぇじゃん」


当の原田は何事もなかったように背筋を伸ばしている。


「…っあるわけねーだろ!最初っからねぇって言ってんだから!」


俺は紅くなった頬を誤魔化すように背ける。


っくそ〜…。ちけぇんだよ阿呆!


「そうだな」


……そうやって余裕な返しをするとこも腹立つ。


俺は原田を無視して


「土方!入るぞ!」


と叫んだ。


完全に八つ当たりである。



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