永遠の灯火

□永遠の灯火
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必死の思いで私はそう呼んだ。
最初からそう呼びたかったけれど、今更なんだとか思われるのが怖くて呼べずにいた。

どうしてこの人はこんなにも優しいのだろうかと改めて実感してしまった。


万「名前。」


万里子おばさんが私を呼んだ。
到底その声は優しい声ではなかった。


万「今までどこにいたの。」

 『・・・・・』

万「名前はどうしたの?」

 『・・・・・』


何をどう答えていいのか分からず、私はまた下を向いて黙ってしまった。

怖い・・・

ただその感情だけが私の心を支配する。
みんなから軽蔑されてしまうのではないかという思いと共に・・・


 「名前ねぇ?」

 『えっ・・・?』


聞き覚えのあるようなないような声に私は振り返った。
そこには赤いタンクトップに白の短パンを履いた、こんがり焼けた男の子が立っていた。
その子が誰かを理解するのにさほど時間はかからなかった。


 『佳主馬・・・?』

佳「名前ねぇだよね?久しぶり。」

 『佳主馬。大きくなったね。』


最後に佳主馬を見たのは、まだ佳主馬が9歳だった頃。
私にずっとくっついていた小さかった佳主馬が、今ではこんな立派な男の子になっている。
目の前にいるのは紛れもない、14歳の中学2年生の佳主馬だった。

そして私は思った。
佳主馬には話しかけることができたと・・・
何のためらいもなく話しかけることができた。

どんどん親戚一同が集まってくる。
そうだ、明後日は8月1日。
栄おばあちゃんの誕生日・・・


万「名前、名前はどこにいるの?」


相変わらずしつこく聞いてくる万里子おばさんに段々私も嫌気がさしてきた。
自分勝手だとは分かっているけれど、ちょっと待ってほしい。


 『お母さんは、先月死んだ。』

全「っ!!!!」

 『私はただ、聞きたいことがあってここに来ただけ。別に戻ってきたわけじゃないから。』


悲しい嘘をついてしまった。
強がってしまった。
本当は聞きたいことは二の次で、本当はみんなとまた元に戻れるようになりたかった。

けれど、こんなひねくれてしまった私にそんな素直なこと言えるわけがない・・・


 『聞きたいこと聞いたらさっさと帰るから。』

理「嘘だろ。」

 『っ!!』

理「何をそんな強がってるの。」

 『別に強がってなんかない!今更ここに帰って来たって、どうしようもないじゃない!』


どうしてあなたにはいつもお見通しなの?
私はあなたに嘘がつけない。
けれど、今は突き通す他に道はない。


理「そんなこと名前が思うわけない。」

 『ふふ。理一にぃ。私のことかいかぶりすぎだよ。』

理「かいかぶりすぎ?」

 『5年前の私はもういない。今ここにいる私は心も体も汚い女。』

佳「名前ねぇ・・・?」

 『だって私は、ついこの間まで売りをやっていたもの。』

夏「売り・・・?」

 『要する、セフレってやつ。』

全「っ!?」


みんなの顔が凍りついたのがすぐに分かった。
そう、今の私は汚い女。

5年前の私にはもう戻れない・・・





<続>
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