永遠の灯火

□永遠の灯火
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もうここには戻ってこないと思っていた。
でも、結局私はまたこの地に足を踏み入れてしまった。

ねぇ・・・
あなたは今でも私を守ってくれますか・・・?



〜永遠の灯火〜



 『着いてしまった・・・』


そう、私は今上田の駅にいる。
懐かしいような、寂しいような・・・
そんな複雑な思いが私の胸をざわつかせる。

5年ぶりの上田は、私が高校を卒業してから何も変わっていなかった。


 『帰ろうかな・・・』


ここまでは何とか来たものの陣内の家まで行く決心がまだついていなかった。
足が重い。まるで鉛のようだ・・・
どうしたものかと1人途方に暮れていると・・・


 「名前ちゃん・・・?」

 『えっ・・・?』


急に自身の名前を呼ばれ振り返ると、そこには白いワンピースのよく似合う爽やかな美少女が立っていた。
最初は誰か検討もつかなかったけれど、私はそのサラサラの黒い髪、真っ直ぐな綺麗な目を見てすぐに誰だか分かった。


 『なっちゃん・・・?』


なっちゃんと口にしたその少女は、私のいとこに当たる、篠原夏希であった。
5年前はまだ中学1年生だった夏希が今では大人の雰囲気をバリバリにかもしだした、いわゆる女になっていた。


夏「名前ちゃん!!久しぶり!!!」

 『うわっ!』


そう言い、なっちゃんは私に思いっきり抱き付いた。
この行動はあの頃と変わっていない。

いや、これだけではない。
誰でも虜にしてしまうようなそのあどけなく人懐こい笑顔も変わっていなかった。


夏「みんな心配してたんだよ!帰って来たのね!」

 『いやえーっと・・・』

夏「こんな所で何してたの?早く行こう!」

 『あっ!ちょっ!』


半端無理矢理私は手を引かれ、陣内家に向かうことになってしまった。
今更ではあるが、なっちゃんと一緒に来て今も後ろから着いて来るこのひょろい男の子はいったい誰なのだろうか。
まぁ、聞かなくとも夏希の彼氏だろうと私は勝手に思った。


夏「万里子おばさん!!」

万「あら夏希!おかえり!健二さんも来てくれたのね!・・・っ!!」

夏「おばさん気付いた?名前ちゃんよ!」

 『・・・・・』


私と目が合った時、万里子おばさんは明らかに驚いたような怒りに満ちたような表情をした。
そりゃそうだろう。
何せ5年も音信不通だったのだから。


万「名前、あなた今までどこに・・・!」

夏「そんなこと後ででいいでしょ〜!とりあえずみんなにも知らせなきゃ!」


相変わらず私の手を離してくれないなっちゃんは、どんどん中に入って行く。
さっきまでの迷いはどこへやら。
私はもう連れられるがままである。


夏「みんな久しぶり!!」


夏希がそう言うとみんなも夏希の挨拶をする。
私はみんなの方はできるだけ見まいと、顔を背けている。


 「名前か・・・?」

 『っ!!』


一番見つけてほしくて、でも見つけてほしくなかった人の声が私を呼んだ。
声だけで誰だかすぐ分かる。
今も昔も変わらない。

優しい声・・・
大人の声・・・

会いたくて会いたくてたまらなかった人の声・・・


夏「そうだよ!理一おじさん!名前ちゃんだよ!!」


なっちゃんがそう言うと、みんなはとても驚いた顔をしたような気がした。
だって、口々に名前かという声が聞こえてきたから。
その時、やっとなっちゃんの手が私を解放した。
逃げ出しそうになった体を、何とか心で引き止めた。
だってここで逃げてしまったら、もう戻れないと思ったから・・・

そんなことを考えていると、私の前に大きな影ができた。
誰かなんてすぐに足元を見ればすぐに分かる。


理「名前、よく帰って来たね。」

 『・・・・・』

理「何で下向いてるの。ちゃんと顔見せてよ。」

 『・・・・・』

理「名前。」


優しく私の名前を呼んだ理一さんは私の頬に手を置き、私の顔を上げさせた。
その時初めて、私は理一さんと目を合わせた。
5年前とちっとも変わらない、優しい目・表情。
涙腺が緩みそうになるのを必死で堪えた。


理「おかえり。」

 『っ!!理一さん・・・』

理「あれ?理一にぃって言ってくれないの?」

 『・・・理一・・・にぃ・・・』
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