始まりは突然に

□始まりは突然に
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初めて見たんじゃないかと思った名前ちゃんの笑顔。
それは本物で、これがこの子の顔なんだと思った。

誰でも魅了してしまうようなそんな笑顔。

後半戦も終わり、うちの学校が勝ったがギリギリの競ったゲーム。
それでも試合が終わってから君が凄く喜んでくれたそれだけでオレはよかったと思えた。


 『仙道さんお疲れ様です!』

仙「ありがとう名前ちゃん。」


初めて会ったあの日、校門で立ち往生していて何やってんだこの子って思った。
話しかけると尋常じゃない驚き方をして、オレまで驚いだっけな。


花「名前!今度湘北にもこいよな!」

 『うん!』


帰り際に桜木が名前ちゃんにこう言った。
桜木にはいとこだけあって名前ちゃんも普通に接している。

早くクラスの子や、オレらにもこうやって接してくれる日が来たらいいなと思う。


田「今日はこの後練習なしだ。」


珍しい監督のこの言葉。
みんな素直に従い片付けをする。

ひとしきり片付けも終わりみんながちらほら体育館を後にしていく。


 『お疲れ様でした。』

仙「お疲れ。」

越「お疲れ。」


余韻が覚めてしまったのか、元に戻ってしまった様子の名前ちゃん。
出入り口の近くにいたオレと越野、監督だけにそう言い帰って行った。


仙「オレも帰るかな。」

越「お前来るのは遅いくせに帰るのは早いのな。」

仙「それ言ったら名前ちゃんもでしょ。」

越「名前ちゃんはいつも遅刻しねーんだよ。」

仙「越野も名前ちゃんにメロメロだね〜」

越「なっ何でそうなるんだよ!!」


おっと図星かな。
少しだけ顔を赤くした越野を横目にオレは体育館を出た。
いつの間にか名前ちゃんはバスケ部のマドンナってわけか。

まっすぐ家に帰ろうかと思っていたオレは、海でも見て帰るかと思い足を運んだ。
いつもは岩棚の所で釣りをするが、今日は釣り道具も持っていないことだし砂浜の方へ向かう。
するとそこには先客が…


仙「名前ちゃん?」

 『っ!!せっ仙道さんかぁ。びっくりした。』


あれ?
名前ちゃん普通に話せてる?


仙「どうしたの?こんなとこで。」


オレは名前ちゃんの隣に腰を下ろしながらそう尋ねる。
すると名前ちゃんは前に広がる海を見ながら答えた。


 『余韻が覚めなくて…』

仙「試合の?」

 『はい…』

仙「こんなこと聞いていいのか分かんないんだけどさ。」

 『何ですか?』


名前ちゃんは初めてオレの方を見た。

パッチリ二重の大きな目。
目を閉じると影ができるんじゃないかったくらい長い睫毛。
きめ細かい透き通った白い肌。

整ったその顔でオレをまっすぐに見る。
こんなに名前ちゃんとまっすぐ顔を合わせたことってなかったんじゃないか…?


仙「名前ちゃんってさ、ずっと人見知りだったの?」

 『えっ…?』

仙「あっごめん。気にしないで。」

 『ずっとじゃないですね…』

仙「えっ…?」


オレが逸らした顔をまた名前ちゃんに向けた時、もうオレの方は見ていなくてまた海の方をみていた名前ちゃん。
でもオレはその横顔を見つめた。


 『昔は…もっと色んな人と話せてたんですよ。』

仙「そうなんだ。」


名前ちゃんは『はい。』って言ってそれ以降は何も話さなくなった。
オレにはまだその理由を話すほど信頼はないわけか…

でもこれからその信用を作って行こうと珍しくそう思ったオレだった。


仙「海は好き?」

 『大好きです。』

仙「どうして?」

 『海は…海はどこまでも広いから。』

仙「広いから?」

 『はい。』


名前ちゃんはまたそれ以降話さなくなった。
自分のことを基本相手に話さないだけなのか、話すのが苦手なだけなのか正直どちらか分からないけれど、オレはこういう静かな時間が何だか居心地よかった。


 『私そろそろ帰りますね。』


そう言って立ち上がった名前ちゃんの手首をなぜだか急につかんでしまっていたオレ。
自分でもこの行動に意味が分からなかった。

当然名前ちゃんもその大きな目をさらに大きくし驚いている。
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