夏色ドロップ

□夏色ドロップ
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どうして神様は私にこんな悪戯をするの…?
どうして神様は私をこんなに苦しめるの…?

こんなことを考えていた私の心の中に飛び込んで来てくれたのは他の誰でもなくあなたでした。
そんなあなたに私は恋をしました…

底抜けの優しさと眩しいほどの笑顔を持ったあなたの隣で、今も私は笑えていますか?



〜夏色ドロップ〜



桜の花が散ってしまい、綺麗な緑に色づいた葉をつけてどっしり立っている木を目の前に私は座っている。
世間では新しい生活も少しずつ慣れてくるであろう5月。

日によっては日差しが少し暑くも感じられるようになってきた。


看「名前ちゃんここにいたの。」(看は看護婦です。)

 『あっ、はい。』

看「暖かくなってきたからって油断しちゃダメよ?」

 『分かってまぁ〜す。』


私がそう言うと看護婦の一ノ瀬さんは病院に入って行った。
私の担当看護婦さんだ。

それから5分くらいそこにいたが、少し肌寒くなってきたように感じたので病室に戻る事にした。
点滴用具を押しながら廊下を歩いていると…


 「わぁっ!」

 『きゃっ!』


廊下の曲がり角で走ってきた子供とぶつかってしまった。
子供とはいえ、急なことで身構えていなかった私は後ろに倒れる恰好になってしまう。


 『(やばい…!)』

 「おっと!危ない!」


私は痛みを覚悟していたけれど、思っていた痛みはどこにもこなかった。
その変わり誰かに支えられたような柔らかい感覚がした。

私はきつく閉じていた目を開け相手を見た。


 『あっすみません…!』

 「いやいや。大丈夫ですか?」

 『はい。』


その人は優しく私を立たせてくれた。
制服らしき服を着ている男の子。
短髪の色素の薄い栗色の頭。
少し高い落ち着いた声。

私はついつい見入ってしまった…


 「病院では走っちゃダメだぞ〜」

 「はい。ごめんなさい。」


私がぶつかった小学生低学年くらいの男の子にそう優しくその人が言うと、男の子はちゃんと謝ってその場を離れて行った。
その光景をぼーっと見ていた私は助けてくれた男の子がこちらを振り返ったことに気が付かなかった。


 「大丈夫ですかー?」

 『えっ?あっはい!』

 「どこも怪我してないですか?」

 『大丈夫です!』

 「それはよかったです。」


そう言うとニコっと屈託のない笑顔で笑ったその人…
その笑顔に少しドキっとしてしまった自分がいたということは、もうしばらく黙っておくということにしましょう。


 『お名前は?』

 「栄口勇人です!高1っす!」

 『あっ!なんだ!同じ年かぁ〜!私、苗字名前!高1ですvv』

栄「っ!!とっ年上かと思ったよぉ〜」

 『あはは!私も!』


そうして少し廊下で話をしていた。


 『あっ、よかったら私の病室こない?』

栄「えっいいの?」

 『うん!栄口君がよかったらだけど!』

栄「オレは全然構わないけど…」

 『決まり!じゃぁ行こ♪』


栄口君を連れて私は自分の病室である個室部屋に行った。
こういう時は個室でよかったかな?って少し思ってしまった。


 『そこの椅子座って。』

栄「うん。ありがとう。」


栄口君は先ほどのような笑顔見せながら椅子に座った。
私はその笑顔見て少し頬が熱くなったのが分かったけれど、それを隠すように下を向きながらゆっくりベッドに腰掛けた。


 『栄口君って珍しい苗字だよね?』

栄「よく言われるんだ〜」

 『栄口って呼び方長いから、勇人君って呼んでもいい?』

栄「いっいいよ!」

 『ありがとうvv私のことも名前でいいからね!』

栄「うん!」

 
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