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□「可愛い…」
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青子は馬鹿だしよくふてくされるしキッドの悪口ばっかり言ってムカつくけど。…やっぱりいつも、どこか恋心が揺れる。
……それに今日は、そいつがやけに揺れ動く。理由は、ひとつ。
「青子はやっぱり似合うねーその衣装!」
「そ、そんな事ないよ」
文化祭に白雪姫をやることになった俺らのクラスで、その白雪姫役がまさかの青子が抜擢された。
…と、まあそれでこのドレスアップなんだが…。
「…?どうしたの快斗」
首を傾げる青子に、俺は顔が赤くなってないか心配した。
「…か…」
「か?」
「…かわ…」
“かわいい”
そう、一言言えばよかったのに、俺は…。
「かっ、かわいくないし!」
…体が、反射的に俺の本意を隠してしまった。やばい、さすがの青子もかわいくないなんて言われたら…。
「あ、いや、違うんだそのっ…」
「知ってるよ?」
…は?
「…いや、…えっと?」
「だーかーら、いっつも快斗にひどいこと言われてるんだから、別にそう言うって事くらい想像してるわよ!」
ふん、と鼻を鳴らし、意地悪に笑う青子の顔に妙に腹が立った。…普通、傷ついたりしないのか?
…青子は俺にどう思われもていいってことか?
「…冗談じゃねー」
「へっ?」
ードン、
壁に迫られた赤い頬の青子の目を真っ直ぐ見つめた。
そして、腹の底から声を張り上げる。
「可愛いに決まってんだろ!誰よりもっ!」
…今更、数秒前に放った自分の発言が恥ずかしくなっていく。青子の顔が更に赤くなると同時に、自分の体温が上がっていることにも気がついた。
「…だから、その、ちょっとは意識しとけよ…!…って、こと…」
「…っ、…う、…う、んっ…」
「…あ、あと…、別にヒドいこと言ってるって言うけど、それは、そのっ、て、照れ隠し、みたいなもんだし!」
「…っ、…」
「だから、その……」
…言いたい事がまとまらなかった。いつもなら、キッドの姿なら、どんなキザなセリフも思い浮かぶのに…。
結局言葉は途切れ、顔が真っ赤で見つめる青子を後にし、急いで作業場に戻った。じわじわ残る熱はなかなか誤魔化せなかった。
「……はーあ」
小さなため息とともに、瞼を閉じた。
…俺って、不器用だな
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