short//鋼

□刹那
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「お父さん、ちょっと待ってよ!」

『早くしないと置いてくぞ〜』

まだ私が買い物の途中なのに、父は待つこともなくスタスタと歩いて行く。

本気で置いてかれると思った私は、焦りすぎてお釣を道にばら蒔いてしまった。

「あーもう!」

そんな私に気付かず、父は勝手に歩いてく。
私はブツクサと文句を言いながら落としたお金を拾っていた。

『はい、これもあんたのだろ?』

そう言って小銭を差し出された。

「あ、ありがとうございます!」

私は顔をあげて、お礼を言った。
その瞬間だ。
その瞬間、私は恋に落ちた。

『あんまり焦るなよ?
セントラルは怖ーいとこだからさっ』


彼は笑いながら言うと、私の手に小銭を置いた。

中性的な顔立ちで長い髪の毛。
でも声の感じから男の子だと分かった。

『ん…あんた錬金術師?』

「へ?」

『それ、錬成陣だろ?』

彼は私の手の甲を指さした。
私は手の甲に錬成陣がある。
その方が錬成陣を描く手間が省けるからだと父に言われ、手の甲に直接描いたのだ。

「あ、うん。
まだ見習いなんですけど。」

『へぇ…見習いか…
ま、頑張りなよ。』

ドクンと大きく脈を打つ。
うるさいくらい高鳴る鼓動に、私は恥ずかしくなった。

『おっと…もう行かなきゃな。
じゃあまたね、錬金術師さんっ』

軽く手を振ると、彼は去って行った。

私は暫くの間ボーッとしていた。
まだ心臓がうるさい。
初めて会った名前も知らない彼に、一瞬で惹かれた。

『おーいリーシャ!』

遠くで父の声がした。

「はぁい!」

私は大きく返事をして父の元へと向かった。

また彼に会えるだろうか?
今度会った時は名前を聞かなきゃ

なんて、頭の中ではそればっかり。

恋の始まりは一瞬。



____________FIN.
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