図書室その2
□2 〜望みもしなかった事〜
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「さて、ト。」
片言で、小さいのによく響く声が言葉を紡ぐ。
発信源は、先ほど落ちてきた人形。
人形が喋るなど、もう沢山のホラ−で出され尽くしている。
垂直落下してきた人形がどこも壊れていないことには少々、疑問が残りはするが。
(むしろそれよりも先ほどの動きはなんだったのかを聞きたい。今すぐに。)
目新しくも何とも無い。
それに、自分の親に殺されかけている状況でそんな事は気にしていられない。
もしかしたら、気にしたくとも出来ないの間違いかもしれない。
「オい、お前。」
突然だった人形の登場と恐怖の踊りとで周囲の連中は、いまだ目を奪われている。
もし逃げるとしたらこれほど好機は無いだろう。
気付かれても、すでに走り出している自分と走り出そうとする者。
どちらのほうが早いかなんて、小学生でも分かる。
「おい、お前・・・・・・聞こえてンのに無視シやがるたぁ・・・。」
ここに全身の筋肉を思うように使用できる古武術の使い手でもいれば話は違ってくるが、
この世界では、ある特別な階級を持つ者以外武術を学ぶことは禁じられている。
見渡した限りではその証を付けている者はいない。
ならば_
「俺様を無視しやガるなんてな」
急に俺の思考は止められた。
原因は、目の前の人形に思い切り跳び蹴りを食らわされたためだ。
痛い、なんてそんな可愛らしい物ではなく、激痛が蹴飛ばされた場所を走っている。
周囲の人間はそんな光景に一時更に呆然とし、次の瞬間には大笑いしていた。
人形にさえ、危害を加えられている俺。
情けなさい、居た堪れない、悔しい、辛い、苦しい・・・色々な感情が俺の頭の中を駆け巡る。
でもやはり頭にこびりついて剥がれそうに無いのは、悲しみ
憤怒も嫉妬も憐憫も苦痛も憎悪も全て、心の中にある感情の何もかもが、平等に悲しみの前にひれ伏して、塗り潰されていく。
日常が日常でなくなっていく感覚。
さっき感じていた物よりも遥かに強烈に。
自身が当たり前だと思い軽く考え、時に嫌悪した日常。
それが粉々に、壊れていく。
「ふん、俺様ヲ無視しやがるからだ。罰として俺様にツいてきてもらう。」
「な?!いきなり出てきた人形風情が何を、それは異教徒!我々が壊すべき物なるぞ!」
「ソんな事は知ったこっチゃねぇ。俺様がしたいようニするだけだ。」
「何をほざくと思えば・・・笑止!貴様のような物に、崇高なるノイターク様の意思など分かるまい!」
「そりゃ、わかりタくねぇよ。あんな戯言なんザなぁ。だから壊したノさ、思いっきり・・・ナ。」
「貴様・・・何者だ?!」
「・・・一度しかいわねえ。俺様の名は、シフレス=サドナギエル、てめぇらの神書でいう悪魔だ!」
高らかに宣言した、悪魔。
その姿は王者と呼ばれても可笑しくないほどで。
そんな姿で紡がれた言葉。
嘘だとしてもこのあまりといえばあまりの宣言に、全てが凍りついた。