ゾルディック家編
□#28 懐かしい匂い
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「じゃあ、次は少し本気を出します。」
コインを弾く乾いた音が響く。
次の瞬間、先程までとは比べ物にならない速さでコインがゴトーの手の中に消えていった。
「さぁ、どっち?」
「ん〜。
自信薄だが……
多分右…」
「左じゃない?」
初めて答えが分かれたところで、少々悩み始めるレオリオとゴン。
単なるゲームと思っているため、軽い気持ちで意見を言い合っていた。
そんな彼らの様子を見ていたゴトーが、静かに口を開く。
「私は、キルア様を生まれた時から知っている。
僭越ながら、親にも似た感情を抱いている…」
今まで以上に低く暗い声に、唯ならぬ気配を感じたアイリたちは、ゴクリと生唾を飲んだ。
「正直なところ…
キルア様を奪おうとしているお前らが、
憎い。」
「…っ!!」
アイリは、そう言って額に青筋を立てているゴトーに一瞬怯んでしまった。
この部屋の空気も、明らかにさっきまでと違う。
「さぁ…どっちだ?
答えろ。」
「左手だ。」
凄い威圧に言葉を失うアイリたちを見て、クラピカが冷静に答えを出した。
「…。」
ゴトーはゆっくりと、左手を広げる。
言い当てられた手の中のコインはぐしゃぐしゃだった。
「 キルア様が来るまでに結論を出す。
俺が俺のやり方でお前らを判断する。
文句は言わせねぇ。」
もはや、これはゲームではない。
しかし、それに気付いた時にはもう遅かった。
彼らを取り囲んでいた執事の一人が、カナリアの首にナイフを宛がったのだ。
残りの執事たちも、剣を構えてアイリたちを脅かす。
「いいか。
一度間違えればそいつはアウトだ。
キルア様が来るまでに四人ともアウトになったら…
キルア様には五人は“行った”と伝える。
二度と会えないところにな…。」
予想外の展開に、混乱する四人。
ゴンは戸惑いと怒りで頭がパンクしそうだったが、ふっと別室で眠るジュリのことを思い出した。
『後少しなんだ…っ!
後少しでジュリとキルアが会えるのに…!』