ヨークシンシティ編
□#48 優しい涙
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セメタリービルの中では旅団のリーダーがゾルディック家に殺されたとの噂が駆け巡っていた。
『まさか…そんな…
信じない!!自分の目で確かめるまで!!』
クルタ族を皆殺しにしたあの幻影旅団が、本当に死んだとは考えられない。
クラピカは、急いで現場に向かった。
そこで目にしたものは………
瓦礫にもたれるようにして座り込んだ若い男性の死体。
左腕がなく、血まみれだった。
これが、蜘蛛のリーダー。
本当に……死んだんだ。
旅団の死体は外にも4体あることが明らかになっていた。
ウボォーギンを含むと、蜘蛛の手足は残り半分になったのだとクラピカは思う。
………しかし、心がついていかない。
まだ現状を完全に受け入れることができていないが、その足で競売が既に始まっている会場まで走った。
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父親ライトの反対を押し切って、こっそりセメタリービルに入り込んでいたネオン。
ビルの中で倒れたところを男性に発見されて、救急搬送された。
今は病室で深い眠りについている。
通報した男性がクロロだったということを、ノストラード組はおろか、誰一人として気付いていないだろう。
ネオンは団長と接触し、彼に自慢の占いも披露していたのだ。
病室で眠るネオンの側にライトは腰掛ける。
その横にはセナもいた。
センリツたちは病室の前で待機している。
ライトのお気に入りであるセナは、こういう所でも他の護衛たちと違う待遇なのだ。
しばらく続いていた静寂を破るようにして、病室に小さなノック音が響く。
その規則正しい音だけで、セナはそこに立つ人物が誰なのか分かった。
途端に速くなる鼓動を感じ、自分がどれだけ彼のことが好きなのかを思い知らされる。
──ガチャ──
「……………。」
部屋に入る愛する人の表情を見て、セナは息が止まりそうになる。
生気を失った瞳。
色を無くした肌。
いつもより、うんと小さく見える背中。
ウボォーを殺した時とはまた違う、儚いクラピカがそこにいた。
今にも崩れてしまいそうなその身体で、しっかりと何かを抱えている。
ライトがクラピカから箱を受け取ると、程なくしてネオンが目を覚ました。
「キャーーやったぁ!!
パパありがとうーーーー!!」
箱を開けるなり、そう叫ぶ彼女。
大事そうに抱えるそれは、ガラスケースに入った緋の目だった。
「ねぇ、セナも見て!!
すっごいキレイでしょ!?」
「………うん。
とても綺麗。」
セナはいつものように思ったことを素直に口にした。
「綺麗だけど…
だからこそ、この目を持って苦労したこともあるんだろうね。」
「………??」
セナの独り言のような呟きに、ネオンは小首を傾げる。
クラピカは表情一つ変えることなく、じっとそこに立っていた。