ゾルディック家編
□#27 ちゃんと心がある
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「ゼブロさん!
ありがとうございましたっ」
ゴンの声に続き、残りの四人も「ありがとうございました!」と言って深く頭を下げる。
ゼブロたちの宿舎での特訓を始めてから20日。
アイリとジュリもとうとう試しの門を開くことに成功し、やっと堂々とゾルディック家へ足を踏み入れることが出来たのだ。
「全く、あなたたちには驚きだ!
本当に試しの門を突破してしまうんですからね。」
「ゼブロさんたちのおかげですっ!
これでやっとキルアに会えるよー。」
ここ三週間ほど毎日着ていたベストにすっかり慣れていたアイリは、そう言うといつも以上に軽い体で飛び跳ねた。
ジュリもまさか自分がこの特訓を乗り切ることができると思っていなかったため、若干興奮気味である。
「…キルア坊ちゃんは、本当に良い友達を持った。
いいですか、皆さん。
ここを越えても、坊ちゃんに会うまではまだまだ試練が待っているはずです。
気を抜かず頑張って下さい。」
いつもニコニコ笑っているゼブロが、真剣な顔で彼らにそう伝える。
それを見て、浮かれていた彼らの表情も一気に堅くなった。
そう…
試しの門を通過できたとは言え、
ここはあの有名な暗殺一家ゾルディック家の住む地。
門を越えたと言うことは、番犬であるミケの餌食になることを逃れただけに過ぎない。
きっとここには、自分たちの常識では通用しないようなルールがまだ潜んでいるに違いないのだ。
改めて、自分たちの置かされている立場に気付いたジュリは、その表情を曇らせた。
『早くキルアに会いたいのに…。』
逸る気持ちを抑え、ギュッと唇を噛み締める。
そんな彼女の姿を見ていたゴンは小さく微笑むと、自信満々の声でゼブロに言った。
「大丈夫だよ。
俺たち、必ずキルアを連れてここを出るから!」
何の躊躇いもなくそう主張する彼に、ジュリの心は軽くなる。
「ねっ?」
「…うんっ!」
ニカッとゴンに笑いかけられ、ジュリは力強い返事を返した。
やっとここまで来たんだ。
何としても、キルアを連れ戻さなくちゃ!
明らかに先ほどまでとは違う、凛々しい顔を見せるジュリ。
そんな彼女の横顔を見つめ、ゴンはほんの少し胸が痛むのを感じながらも、心は満足だった。
「私も、君たちなら必ずキルア坊ちゃんを救えると信じてるよ。
行ってらっしゃい。」
ゼブロのいつも通りの笑顔の裏には、様々な想いが隠されている。
たった20日間という短い時間だったが、彼らのことは孫のように可愛かった。
別れが寂しいのも当然だ。
そして何より、彼らが無事にキルアと会えるかどうか、心配でたまらなかった。
それでも、仲間のために意気揚々と出かけていくこの子たちを引き止めたいとは微塵も思わない。
不思議だが、心配よりも期待の方が大きいのだ。
彼らならきっと、どんな困難も乗り越えられる。
「ゼブロさん!」
名前を呼ばれ、ふっと我に返った彼の目の前にあったのは…
色白の、小さな掌。
「本当にありがとうございました。」
優しく微笑むアイリの右手を、ゼブロは吸い寄せられるように握った。
「こちらこそ。
ありがとう。」
見えなくなるまで手を振り続ける彼らを見送りながら、ゼブロは「人生まだまだ捨てたもんじゃないな!」と、うんと背伸びをした。