ゾルディック家編

□#28 懐かしい匂い
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意識を取り戻したカナリアに導かれ、アイリたちは今、執事室へ向かっている。

日はもうすっかり暮れ、空には満天の星が輝いていた。

しかし、そんな美しい星空も、この静かなククルーマウンテンには違和感しか与えない。


先ほどキキョウに撃たれたジュリは、レオリオの応急処置を受け眠っている。

そんな彼女を背中に抱え、ゴンは何とも言えない嫌悪感に襲われていた。



あの時、カナリアに手を差し伸べたことを後悔するつもりはない。
実際、こめかみを撃たれた彼女のことだって心底心配だったのだから。


だが…

そのせいで身動きが取れず、一番守りたかった人を守れなかった。


悔しくて、悔しくて…



歩く度に跳ねる彼女の小さな身体をしっかりと支え、ゴンは心の中で語りかける。


『ジュリ…
ごめんね。

だけど、
俺が必ずキルアと会わせてみせるから!』


彼女を傷つけたのがキルアの母だと知ったとき、ゴンたちは酷くショックを受けた。

我が子の友達に危害を加える母親なんて、普通じゃない。

第一、そんなことキルアは望んじゃいないはずだ。


一方で、「ここからキルアを救い出さねば!」という気持ちが、更に高まった瞬間でもあった。


こんな暗黒な世界、キルアには似合わない。


「見えて来たわ。

あれが執事室です。」

カナリアの声に、ふっと顔を上げる一同。


そこにあったのは、むしろこれが本邸ではないのかと思う程の立派な建物だった。

「…えっ!!!

もう、この家のアベレージが全く理解できないよ…」

アイリは驚きを通り越し、もはや呆れたような声で小さく呟く。



「さぁ、入って。」

カナリアに言われ執事室の中に足を踏み入れると、そこには黒スーツに身を包んだ数人の男性が立っていた。


その内の、眼鏡を掛けた少々人相の悪い男が口を開く。

「お待ちしておりました。
どうぞ中へ。」


アイリたちは先ほどのキキョウの件もあり、少し警戒した体勢で彼らを見つめる。

感情が高ぶりやすいレオリオは、露骨に不機嫌な顔をしてその男性にこう言った。


「心遣いは嬉しいが、俺達はキルアに会うためにここに来たんだ。

こんなとこに入れてもらう暇がありゃ、すぐにでも本邸に案内してもらいたいんだがなっ」

ジュリの怪我が大したことないのは、処置した彼が一番よく知っているはずだが、怪我の程度云々の問題ではない。

仲間を傷つけるような連中とは、正直なとこあまり関わりたくないものだ。



しかし…


執事から帰ってきたのは意外な返事だった。


「その必用はございません。

キルア様がこちらに向かっておいでですから。」


「「「「えっ!!!??」」」」


予想外の展開に、うまく思考が付いていかない。
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