ゾルディック家編
□#29 私を信じてください
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「ねぇ、クラピカ!
見て見てっ」
キルアと再会した翌日。
久々に六人揃ったアイリたち一行は、パドキア共和国の中心部を観光していた。
昨晩、すぐにでもこの地を出発したい!と言うキルアを説得し、この街でホテルを借りて一泊したのだ。
「せっかく六人揃ったんだよ!?
これはあたしたちの初めての旅行みたいなもんなんだよっ!!?
一日くらい観光して行こうよっ」
そう言ったのは他でもない、アイリだった。
過酷なハンター試験から解放されたのも束の間、今度は暗殺一家の敷地での特訓。
心休まる暇などなかった彼らが、これでようやく一息つけるのだ。
アイリは何としても、この時間で仲間との思い出を作りたかった。
…しかし、
本当の理由は、それだけではない。
キルアを連れ戻すためにここまで行動を共にしてきたけれど…
用事が済んだ今、
もうクラピカを引き止める理由がなくなってしまったのだ。
復讐という明確な目的を持っている彼は、今後の予定をこっそりと一人企てているはず。
そうなれば、もうクラピカともお別れだ。
試験が終われば別の道を進むことになるとは気付いていたが、心の準備がまだ完璧ではなかったアイリ。
悪足掻きと分かっていても、一秒でも長く彼と一緒にいたかったのだ。
「アイリ、もう少し落ち着いて観光できないのか?」
様々なお店や食べ物を目の前にして、アイリは少々浮かれている様子。
「だって楽しいんだもん!
ハンター試験受ける前に、あたしもちょっとだけパドキアにいたけど…
ずっと山奥にいたから、観光するのはまだ二回目なんだっ」
クラピカは有頂天の彼女を見て「やれやれ」と思いながらも、ふっと自分の頬も緩んでいることに気付く。
いつも以上に明るく笑うアイリにどこか違和感を覚えてはいたが、その笑顔にはどうしても適わない。
先頭を駆けて行く彼女の後ろを歩きながら、クラピカはそんなことを考えていた。