ヨークシンシティ編
□#46 無垢
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「………セナ。
一体……何故こんなことを!?」
目の前に立つセナの右手には、血まみれのナイフが握られていた。
同胞の仇を討つため、憎き旅団にとどめを刺そうとしたその時だった。
クラピカがウボォーの心臓を貫く前に、セナが奴の胸を鋭いナイフで突き刺したのだ。
「クラピカくんに復讐なんて似合わないよ。」
「……!!」
「クラピカくんは優しい人だから。
どんなに憎い相手でも、殺してしまったらきっと後悔する。」
「………だからと言って、何故お前が‼」
「私はいいの。
別に心は痛まない。」
「………そんなわけないだろ!?」
「クラピカくんには手を汚して欲しくない。」
「お前は関係ない!!」
思わず声を荒げる。
予想もしなかった展開に、クラピカは混乱していた。
自分の復讐に、関係ない人を巻き込んでしまった。
そして…
彼女を人殺しにしてしまった。
とんでもないことをさせてしまったのだ。
だけど…………
この結末にほんの少しだけ安心している自分がいる。
先程ウボォーを殴った時に気付いてしまった。
「私に人は殺せない。」と─……
あれほど憎んだ相手なのに、
人を殴る感触に耐えられなかった。
だから本心では、自分がとどめをささず済んだことにほっとしている自分がいて───……
それが無性に腹立たしかった。
「言ったでしょ?
私、あなたのためなら何でもできる。」
「………!」
「クラピカくんの力になりたいの。」
「………セナ。
私はお前に何をしてやれる??
お前を巻き込んでしまった私は……
一体、どうしたら………」
酷く混乱しているクラピカに、セナは笑顔でこう答えた。
「何も。
ただあなたの傍に居させてくれるなら。」
「………。」
セナの唯一のその願いを、もちろん受け入れることはできない。
しかし、いつものように彼女を拒絶することもできなかった。
セナの右手の鮮明な赤が、クラピカの判断を狂わせる──……
そうして二人、罪を共有するようにウボォーの亡骸を土に埋めた。