ゾルディック家編
□#24 素直にならなきゃ
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ゼブロに誘導されやって来たのは、使用人の暮らす宿舎だった。
「さぁ、どうぞ。」
いとも簡単に開けられたその扉が、実は500キロもあるということを、アイリたちは後に知ることとなる。
「お邪魔しま─…すぅ!!?」
用意されたスリッパを履き、一歩前へ踏み出そうとしたレオリオが盛大に転んだ。
「…ちょっと、レオリオ!?
大丈夫なの?」
ジュリは慌てて彼に手を差し出す。
「えっ…えっ!?
おい、こりゃどーなってんだ!?」
彼女の手を借りて起き上がったレオリオは、狐に摘まれたような気分だ。
「いやいや、それはこっちの台詞でしょ!(笑)
面白すぎるよ、レオリオっ」
アイリは、ギャグさながらの彼の転倒がツボに入ったらしい。
お腹を抱え、目に涙を溜めながら笑っている。
「お前は…
人様の家に来て早々、何をしているんだ。」
「違うっての!!
クラピカも履いてみろっ!!
それからアイリっ、
笑うんじゃねー!」
ゲラゲラ笑うアイリと共に、クラピカ、ゴン、それからジュリもスリッパに足を入れる。
そして一歩踏み出した、その瞬間─…
─ズゴーンッ─
宿舎全体に、床を叩く大きな音が響いた。
「…何事だ?」
騒ぎに気づき、部屋の奥からゼブロより若い男が顔を出す。
「あぁ、お客さんだよ。
試しの門を開けられるまで、暫くここで生活するんだ。」
「…はぁ?
そのスリッパ履いて歩けねぇようなガキどもの相手なんて、俺はごめんだぜっ」
シークアントと言うその男は、あからさまに面倒くさそうな顔をすると、ブツブツ文句を言いながら部屋に戻って行った。
「…ゼブロさん、
これ…」
床に突っ伏したままの状態で、ゴンはゼブロを見上げて話す。
「…あぁ、そのスリッパは片方20キロあります。
こうやっていないと、体がなまって試しの門も開けられなくなるんですよ。
あの門を開けれなくなったら、私たちは必然的に解雇ですからね。」
そう言って笑う彼の顔は、何だかあまりにも清々しかった。
やっとのことでリビングまで行き着くも、出されたお茶にまたしてもお見舞いされる。
鉛のようなその湯飲みを持ち上げるには、かなりの時間と労力がかかるのだ。
「…お茶も冷めるわっっ!」
思い通りにならないもどかしさに、アイリは思わず突っ込みを入れる。
「もう…ダメ。」
ジュリはスリッパで痛めた足をさすりながら、机に突っ伏した。
「まぁまぁ、皆さん気を落とさずに。
ここで二週間も生活すれば、自然と力は身につきますよ。」
尚もニコニコ笑いかけるゼブロ。
ゴンは引きつった笑顔でクラピカと顔を見合わせた。
その後、トイレと言って席を外したレオリオ。
500キロあるそのドアを開けるのにかなりの時間を取られ、彼が泣きを見たということは言うまでもない。
そんなこんなで、彼らのゾルディック家での初日は幕を閉じた。