ゾルディック家編
□#25 誰よりも強い
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「…最終試験での謝罪なら、もう何度も聞いたぞ?」
クラピカは、今にも泣き出しそうな彼女の顔を見て「やれやれ」と思いながらも、「いつものジュリだ」と安堵の笑いを零した。
最終試験でイルミに怒り狂ったジュリは、こんなか弱い表情ではなかった。
自分をすっかり見失い、クラピカの腹部を力いっぱい殴ってしまったジュリ。
あの時の剣幕は凄いものだった。
その後正気を取り戻した彼女は何度もクラピカに謝ったが、やはり仲間に手を出してしまったことがショックだったのだろう。
あれ以来、彼の顔もまともに見れず、いつも後ろめたい気持ちがあった。
何より、あんなにも豹変してしまう自分が怖かった。
「…そう、なんだけど。
やっぱり謝り足りなくて…」
三人の間を、2月の冷たい風が駆け抜ける。
暫くの沈黙の末、ジュリは静かに言葉を発した。
「わたしは弱い人間なの。
あんなに酷いことしたのに、クラピカはいつもと変わらない笑顔で笑いかけてくれて…
それがあなたの優しさだってことはちゃんと分かってるんだけど…
むしろ優しくされればされるほど、罪悪感が増えるの。
いっそ“お前は最低だ!”って責められた方が楽なのにって…思っちゃう。」
それまで俯いて話していた彼女が、ふいに視線を上げた。
「ね?
わたしって弱いでしょ?」
溢れそうな涙を必死に堪え、彼女は可愛らしい顔を歪めて笑った。
そんなジュリの姿を見て、クラピカは静かに口を開く。
「…お前は何故、あのとき私を殴ったんだ?」
「…え」
「誰のために、あれほどまでに必死になってイルミへ向かったのだ?」
「……っ。」
大きくて綺麗なクラピカの瞳。
ジュリはその視線に捉えられると、もう何もかも見透かされているような気持ちになった。
事実クラピカは、ジュリの恋心に気付いていた。