ゾルディック家編
□#28 懐かしい匂い
2ページ/9ページ
「でもさっき…
キルアのお母さんって人が、今は会えないって…」
アイリがしどろもどろにそう言うと、眼鏡の執事は丁寧に現状を説明してくれた。
「先ほど、その奥様からこちらに連絡がありまして。
キルア様があなた方と旅立たれることを、旦那様が
お許しになったのです。」
アイリたちは、一瞬「信じられない…」という顔をしたが、そう言えばキキョウは去り際、何かヒステリックに騒いでいた。
「本当に、キルアは俺たちと行くことを許してもらえたんだね?」
いつもよりトーンの低いゴンの声が、広い執事室に静かに響く。
「ええ。
もうしばらくお待ちください。」
ゴトーと名乗るその執事は、そう言って彼らをソファーへ座らせた。
未だ意識の戻らないジュリは、別室に寝かせてもらうことにした。
お茶やらお菓子やらが用意され歓迎ムードが漂ってきた所で、ようやくアイリたちも警戒心を拭い取る。
本当に、もうすぐでキルアに会えるんだ。
誰もが浮かれ気分になり始めていたその時…
「さて。
ただ待つのは退屈で長く感じるもの。
ゲームでもして時間を潰しませんか?」
ゴトーはそう言うと、どこからともなくコインを取り出し、それを指で弾く。
─パチーンッ
…サッ─
いきなりの展開に困惑しながらも、アイリたちはゆっくり彼の手の中に落ちていくコインをしっかり目で追っていた。
「コインはどちらの手に?」
「「「「左手」」」」
何の躊躇いもなく即答する四人。
ゴトーが静かに左手を開くと、そこにはやはり先ほど投げられたコインが乗っていた。
「ご名答。
では、次はもっと速くいきますよ。」
うっすらと笑みを浮かべながらそう言うと、彼はまたパチンとコインを弾く。
確かにさっきよりは早いが、まだまだ目で追えるスピードだ。
「さぁ、どちら?」
「また左手!」
ゴンの声に、他の三人もしっかりと頷く。
ゴトーは指された左手に握っているコインを見せると、満面の笑みで拍手した。
「素晴らしい。」
アイリたちが座るソファーを囲むようにして立っている執事たちも、皆パチパチと拍手を送る。
レオリオは「いや〜」と照れたように頭をポリポリ掻きながら、満更でもない様子だ。
しかし…
ここから事態は思わぬ方向へと進んでいく。