ゾルディック家編
□#29 私を信じてください
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「…そーいえば。
昨日、キルアん家から帰るときにね…。」
ゾロゾロと続く人波に従いながら、おもむろにゴンが口を開く。
「ゴトーさんが最後にもう一回だけコインを投げたんだ。
それも、最初みたいな簡単なやつ。
…なのに俺、答えを間違えちゃったんだ。」
「おい、そりゃどーいうことだ!?」
昨夜、あの超難問をクリアしたゴンが、最後の最後に初級レベルの問題を見極められなかったとは…。
レオリオは信じられないようで「お前、キルアに会えたことで気が抜けたんじゃねーのか?」とか「あんな速さのもんばっか見てたら、誰だって感覚は狂うもんだ。」とか、彼なりにゴンを気遣う言葉を掛ける。
しかし、キルアは得意げな笑みを浮かべると「あー、アレね。」と懐かしそうな顔をしていた。
「恐らく、こういうことだろう?」
話を聞いていたクラピカは、自分のポケットからコインを取り出す。
パチンとコインを弾くと、分かりやすく右手でキャッチした。
しかし、この時既に左手には別のコインが握られているのだ。
相手が何も知らず右を選んだところで、素早くそちらのコインを袖の中に落とせば…
残ったのは左手のコインのみとなる。
「なるほど〜っ!!!」
クラピカの実演で謎が溶けたゴンは、思わず感嘆の声を漏らす。
アイリやジュリ、そしてレオリオも自然と拍手をしていた。
さすがはゾルディック家に仕える執事。
あれだけの凄技を見せておいて、最後に巧妙なトリックを仕掛けてくるとは…
やはり唯者ではない。
「でも、これでスッキリしたよー!」
ゴンはそう言うと、それまでとは打って変わって軽い足取りで歩き始めた。
どうやら、昨晩からこのトリックが気掛かりだったようで、今回のプチ旅行も素直に楽しめていなかった様子。
モヤモヤから解放されると同時に、アイリに負けないくらいニコニコと観光を楽しんでいる。
信じられないほど、穏やかな時間。
彼らの心は今、非常に満たされていた。
「そろそろお昼にしようよー。
ねぇ、キルア!!
パドキアの名物ってなに─…」
13時を過ぎたころ、お腹を空かせた一同はこの辺りで昼食を取ることにした。
せっかくパドキア共和国にいるのだから、ここでしか食べられないものを食べたい。
アイリは地元の人間であるキルアに案内してもらおうと、後ろを振り返った。
しかし─…
「……キルアは?」
「さっきまで俺の後ろに…
あれ?
ジュリもいないよ!?」
ゴンにそう言われ、クラピカとレオリオも辺りを見渡したが…
確かにキルアとジュリの姿が見当たらない。
「…もしかして
迷子っ!?」
むせ返るような人混みの中、絶叫するアイリの声が響いていた。