ゾルディック家編

□#31 恋人になりたい
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「…えへへ、驚いちゃった。

俺の気持ち、誰にも知られてないと思ってたから。」

決まりの悪い様子で、頭をゴシゴシ掻く。

そんな彼に、アイリもぎこちない笑顔を向けて言った。


「…うん。
多分、他のみんなは気付いてないと思う。」

「そっか。
それなら良いんだけど…。」


二人の間に暫しの沈黙が流れる。



「……ハンゾーさんがね、前に言ってた。」


アイリはおもむろに、遠い日を懐かしむような顔で語り始めた。


「“ 人の気持ちは変わるんだ。”って。

“有り難いことに、人間ってのはそーゆー風にできてる。”んだって。


あたしね、最初はこの言葉の意味が理解できなかったの。」


“人の気持ちは変わる”なんて言われても、
全く説得力がない。

だって、あたしにはクラピカを忘れることなんてできないし、忘れられるはずがない。


こんなに好きなんだもん。


第一、クラピカへの気持ちが変わるなんて…

そんなの全然、有り難くなんてない。


そう思っていた。



「だけどね…
ハンゾーさんが言いたかったこと、今は少し分かる気がするんだ。


いつかは気持ちが変わるようにできてるなら…

今は無理に忘れる必要ないってことなんじゃないかな?

例え相手が自分を見てくれてなくても。」


「…アイリ。」

ゴンは、じんわりと目頭が熱くなるのを感じた。


ずっと喉につっかえていたものが、
胸を締め付けていたものが、

一気に溢れ出す。


「ジュリちゃんのこと、好きなままで良いんだよ?

いつかゴンが、お互いに愛し合える人と出逢うまで…
好きでいてもいいんだよ。」

「…うっ。」


それまでずっと堪えていた涙が、幼い少年の頬を伝う。

アイリはたまらず、そんなゴンを優しく抱きしめた。


恥ずかしがって暴れるキルアとは異なり、素直に顔を埋めてくるゴン。



あぁ、神様。

この先の未来に、
この子を本気で愛してくれる人が現れますように。



そして、同時に決意したこと。


「ゴン。

あたしもね、もう一度チャレンジしようと思ってるんだ。」

「…え?」

ゴンは涙でぐしゃぐしゃになった顔を上げ、ゆっくりとアイリを見る。

目が合うと、彼女は凛とした表情で笑った。
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