ささやかな、
□その3
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バスケ部で揃えられたジャージに腕を通す。
邪魔にならないよう、髪を愛用している茶色い太めのゴムで束ねる。
今日は土曜日、バスケ部は1日練習だ。
テツヤと共に学校へ、そして体育館へ向かう。もちろん、一軍が集まる体育館だ。
体育館に着くと一番に入り口と反対側にあるコートで自主練をしている色黒の人影が目に入った。その人物は顔をこちらへ向ける。
「おうテツ、神流はよー」
「「おはよう(ございます)」」
「相変わらずすげえな、お前ら」
いつも通り息ぴったりな2人に関心する青峰。だが意識はすぐにボール、そしてゴールへと向かった。そんな青峰を見てテツヤは素直にすごい、そして自分もはやくバスケをやりたいという気持ちでいっぱいになった。
「それでは僕も準備してきますね」
「うん、いってらっしゃい」
神流が優しく微笑むとテツヤも笑みを返し、部室へと向かっていった。
テツヤが居なくなったのを確認すると、青峰は話しかけた。
「なあ、神流」
「なに、青峰君」
神流は先ほどテツヤに向けたものと同じ優しく微笑みながら振り返った。しかし、その笑みは次の言葉でまるで嘘だったかのようになる。
「1on1しようぜ」
「…何言ってるの青峰君。私はバスケできないよ?」
神流は笑おうとするが
「月バス」
「っ!!!」
神流がわなわなと震えていると青峰のところからでもわかった。
「青峰君、私月バスに載ったことなんてないよ」
嘘。
神流の口から発される言葉は震えていた。
本当は小学校の時、一度だけ載ったことがあった。『天才プレイヤー』として。しかし、名前は一切載せていないし顔は極力見えないようにシュートを打っているところが載っていたぐらい。なぜわかったのかがわからず、神流は混乱していた。
「お前が取材受けてるとき、俺もその体育館にいたんだよ。お前を見に」
「…私を見に?」
なんで?
そう言おうとしたが、神流の口が震えていて言葉を発することが出来なかった。
「お前に憧れてたから」
「…青峰君、全部忘れて。私のバスケは奪うことしかできない。憧れたらだめだよ。」
テツヤが戻ってきて何事もなかったかのように振る舞うのは数分後の話。