Raison d'etre

□後日談
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side heroine.


左手首にした腕時計で時間を確認すると、約束の時間までは残り30分。
鏡で軽く全身をチェックし、バッグとカードキーを掴んだ。

『行ってきます』

誰もいない部屋に向かってそう言って、待ち合わせ場所へ向かった。


デパートの地下駐車場。
そこがジンとの待ち合わせ場所だ。
まばらに止まる車の間を進むと、見慣れた黒いポルシェが見える。
運転席側のウィンドウを叩けば、ガラスが下がって中からジンが顔を出した。

『お待たせ』
「…あぁ」

助手席のロックを解除してくれたジンに車へ乗り込む。
座席についた途端、間髪入れずに腕を取られてその唇が重なった。

『…んっ、ふっ…』

今日はブルームーンとしてではなく、朱音としてジンと会う約束をした。
最後に会ったのは帝丹高校での任務の話をもらった時だから、一週間以上前になる。
短い間かもしれないけれど、会いたかったと伝えたくて、その背に手をまわした。

「出すぞ」
『うん、』

少しばかり長めのキスの後、ジンは車を走らせた。


『…、…?』

夕食を食べながら、ジンの様子を観察する。
運転している時も思ったことだが、今日のジンには違和感がある。

「…なんだ」
『え?』
「ずっと俺を観察してただろう」
『…やっぱり気付いてた?』
「当然だ。…何を考えてる?」
『…車に戻ってから話すわ』

この場ですぐにでも聞きたかったけれど、話の内容によってはマズいかもしれない。
それなら、車に戻ってからの方が良い。


「それで、何を見ていた」

夕食を終え車に戻ると、すぐさまジンから先ほどの質問がきた。

『…今日のジン、右腕に少し違和感があって…』
「右腕?」
『うん。少し、本当に少しなんだけど、いつもと動きが違うっていうか…』

そこまで言うと、ジンは考え込むように黙ってしまった。
何か、聞いてはいけないことを聞いてしまったのだろうか。

「…撃った」
『え…撃った?傷は!?』

ジンの来ているコートを掴み、右腕側を脱がしにかかる。
脱がせやすいよう、右腕をこちらへ差し出してくれた。
服を下、二の腕にあったのは、既に塞がりかけた銃創。

『ジンっ、これ…』
「心配するな。この間の、杯戸シティホテルの件で撃った。おそらく麻酔針だ」
『麻酔針?…もしかして、意識を保つために?』
「あぁ」
『そっか、良かったぁ…』

任務遂行の為、ジンが自ら付けた傷。
傷を作るような状況になったことは決して良いこととは言えないけれど、敵にやられたものではなかった。
傷口も塞がっていたし、本当にもう大丈夫なんだろう。

『…心配、したんだからね。大けがでもしてるんじゃないかって』
「…あぁ。朱音」
『?』

名前を呼ばれて、そのまま唇をふさがれる。
ずるいなぁ、もう。
そんなことされたら、許さないわけないじゃない。

『…許してあげる』
「…あぁ」

組織の任務は絶対、それを覆すつもりなんてない。
だけどね、ジン。
私には、貴方自身も、とっても大切なものなんだからね。





to be continued... (back)

 

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