Raison d'etre

□午前3時のコール
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side heroine.


───♪〜

『…?』

午前3時。
まだ暗い部屋に携帯の着信音が響いた。
あれは、ジンの携帯だ。

「…何だ、」

起き上がろうとした私を、隣に寝ていたジンが片手で制す。
そして、至極不機嫌そうな声で電話を取った。

「…どういうことだ」

続いて発せられたのは、いつにもまして低く冷たい声。
電話の向こうの相手が、それにおびえながらも事の次第を報告している様子が分かるほどに。
通話時間に比例するように、ジンの纏うオーラが険悪なものになっていく。
それがピークに達した頃、ジンは通話を切って、そしてベッドから起き上がった。

『どうしたの?』

半分寝ぼけたまま問えば、ジンが着替えながら返してくれる。

「仕事だ」
『え?』
「行くぞ、ブルームーン」

仕事と言われ、コードネームを呼ばれて一気に目が覚める。
それと同時に疑問も生まれた。

『どういうこと?だって、約束は…』
「相手の口車に乗せられて、時間を変えさせられたんだろう。とにかく行くぞ」
『あ、うん。わかった』

今回の仕事は、システムエンジニアである板倉さんから、あるシステムソフトを受け取ること。
その為、ウォッカと数名が動いていた。
取引は明日の0時だし、それまでジンと一緒にいる予定だったのに…。
寝ていたところを起こされたことも相まって、私の機嫌は急降下していた。

それでも準備は進める。
黒い服に着替え、金髪のウィッグを被る。
そして両目には、緑のカラーコンタクト。
鏡の向こうには、朱音ではなくブルームーンがいた。


ジンの運転で、取引場所となっている賢橋駅へやってきた。
建物の陰に、数人の黒い影が見える。

「行くぞ」
『あぁ』

仕事モードに切り替えて、ジンの後を追い地下へ向かった。
地下へ行くと、電話をしながらコインローカーの中へ手を伸ばしているウォッカが。
ジンが音もなく近づき、そして、ウォッカの後頭部に銃を突きつける。

「っ…」

一瞬、ウォッカが息を呑んだのが分かった。

「何の真似だ」
「…あ、兄貴…」
『取引は、明日0時のはずだけど?』
「…ブルームーンさん…。や、奴が明日はマズイってごねたから、この時間に変えたんでさぁ」

ウォッカがこちらを振り向き、早口でそう弁解する。
だけど、今のこの状況から考えて、それは不自然だ。
ジンもそれをわかっているからこそ、さらに銃を突き付けて言う。

「ほぅ…。奴とメールを交わして、いいようにあしらわれたというわけか」
「い、いえ、時間を決めたのはこっちですぜ。アイツ、例の別荘でメールを受け取りやがって、雪で停電したなんてほざきやがるから…電話で直に」

ウォッカがコインロッカーの中のソフトを素手で取り、ジンに差し出す。

「や、奴はバラし損ねやしたけど、ちゃんと目当てのソフトは手に入れやしたし。奴の心臓はかなり悪い。ほっといても、どうせその内おっちんじまうと…」

その間も言葉を続けるウォッカの前で、ジンはソフトの周りに張られたテープを見ていた。
そして、そのソフトを掲げて見せる。

「おい。これがどうしてテープで固定されていたと思う」
「え…?」
「お前の指紋を取るためだ。手袋のままじゃテープを剥がせねぇからな」

ジンの言葉にコインロッカーを振り返るウォッカを横目に、床に捨てられた吸殻を拾い上げる。

『これ、唾液を調べればわかるだろうね。…血液型とかさ』
「取引相手が現れないことで、イラついたお前が火をつけることを狙ったんだろう」
「兄貴…ブルームーンさん…」

ウォッカが唖然とするその横で、ジンはソフトのケースを開け、そこに仕込まれていた発信機を破壊した。





to be continued... (back)

 

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