Raison d'etre
□狐影
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side conan.
板倉さんの代わりに電話に出て、取引の時間を午前4時に変えさせた。
そして、先回りして指定された0032番のロッカーにソフトを固定し、ウォッカが来るのを待った。
狙い通り、取引場所へ来たウォッカはたばこを吸いだす。
それを吐き捨て、素手でテープをはがしていく。
その時、
「何の真似だ」
地下のコインロッカーに、低く冷たい声が響いた。
───ジン
ウォッカが来た時とは比べ物にならないほどの緊張感が漂う。
しかし、
『取引は、明日0時のはずだけど?』
新たに聞こえた見知らぬ声に、俺の意識はそちらへ持って行かれた。
「…あ、兄貴…。…ブルームーンさん…」
二人を呼ぶウォッカの声が、心なしか大きく聞こえる。
ウォッカが言う"兄貴"はジンのことだ。
だとすれば、もう一人のブルームーンというのが、俺の知らない三人目と言うことになる。
そこで俺は、いつか灰原に聞いた話を思い出した。
───…一人いたのよ。情報収集を担当し、どんな場所だろうと物音一つ立てずに対象の背後を取れるよう訓練を受けた人が。噂では、とても優秀な少年だそうよ
───そいつの、コードネームは…?
───…ブルームーン
声を聞いた分には、やや中性的だが若い男という印象で、灰原の言っていた「少年」という表現にも合う。
しかし、俺が何よりも驚いたのは、
『ジン、』
ブルームーンが"ジン"と呼び、ウォッカが彼を"ブルームーンさん"と呼んだことだ。
ウォッカがジンを"兄貴"と呼び敬語を使うことからも、ブルームーンが上の人間だということがわかる。
…それなら尚更、一目、その姿を確認しておきたい。
そう思ったのもつかの間、
『このソフト、まだ温かいよ』
続いたブルームーンの言葉に、俺の意識は引き戻される。
再び、言い知れぬ緊張が俺を襲った。