IF〜もしもの世界〜

□淡花の願いをつかみとれ
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第2章 黒幻


三つの影が土御門大路を東へと抜ける。

前を走るのは人間の僧侶、なのに神である勾陣と謄蛇は追いつけないでいた。

焦燥感が胸を焼く。

そのとき、幕を通ったような感じがして二人は足を止めた。

にやりと僧が嗤う。

その瞬間、二人に巨大な重圧がかかった。

――――――


何とか重圧から逃れた勾陳が隣で焔を掲げる同胞騰蛇を見上げた。

煌めく細かな紋が刻まれた銀冠を見止めふと目を細めた。

「騰蛇」

「わかっている。理は犯さない」

「なら、私はあの僧を相手にする。お前は結界を」

不機嫌そうな面持ちで腕を一閃すると炎蛇があぎとを開け結界とぶつかる。

その刹那、何処からともなく妖が現れ焔を相殺した。

「小賢しい、そんな物は通用せん」

叫びとともにいくつもの幻妖が僧の足もとから湧き出て騰蛇達に躍り掛かる。

勾陳だけでなく

「目障りだ、消えろ」

低く唸ると同時にぶわりと広がった焔がっ幻妖を飲み込む。

怪僧にも焔が伸びるが難なくそれをよける。

それを覆うと勾陳と騰蛇が一歩足を踏み出したとき怪僧は口端を釣り上げた

「かかったな」

「何?!」

瞬く間に足元から蔦が伸び、からめ捕り、二人を地面へ押し倒した。

「勾……!」

「だめだ…これは我々の……精気を吸い取って…る………」

「あがいても無駄だ。これは神縛りの術だ。お前たちでも破ることはできん」

「なにを……ぐっ!!」

手も足も出ない二人を見て怪僧はにたりと笑うと幻妖に命じた。

そして、幻妖が四方八方に散り二人に襲いかかった瞬間一筋の光が其れらを切り裂いた。

「なに?」

「誰だ………?」

幻妖を切り裂いた妖は手にしていた短槍で二人を拘束していた蔓を断ち切った。

彼は一度だけ二人を見るとすぐに視線を怪僧へと向けた。

勾陳はその妖の面差しに覚えがあったがそれはあり得ない事だった。

だが、他人の空似にしては似すぎていた。

「まさか…?」

無意識に紡いだ名前は騰蛇の耳に届いたらしく険しい面持ちで問いただしてきた

「勾、知っているのか」

「ああ、たぶんな……。しかし、その者は数か月前私と青龍の目の前で死んだのだ。それは、晴明や太陰や六合、白虎、玄武も知っている」

「そうか」

―――本当はお前もそうなんだがな……

勾陳は彼の額に光る銀冠を見つめながら心の内で呟いた。




2012/07/19 14:37 | 青藍編 |
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