IF〜もしもの世界〜

□儚き希いを聞きとどけ
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*微グロ注意







帝の御前に安倍成親、昌親、吉昌、傍らには脩子、女房の風音、藤花がいる。

顕現した十二神将勾陣の話を聞き、帝、藤花、脩子は驚愕のあまり青ざめた。

風音、成親、昌親、吉昌は表情には出ないものの、心境は帝らと同じだ。

「勾陣殿、父上が…安倍晴明が末孫である昌浩をその手で殺めたと言うのはどういう事でしょうか」

冷静さを何とか保ちつつ問うてくる吉昌に勾陣は首を振った。

「わからない。だが、晴明は件と手を組んだ。そして、昌浩を殺めたのは事実だ」

吉野の里に晴明の行方を捜しに来た昌浩達は其処で、件と手を組み、襲い掛かってきた晴明と先頭になった。

自分達は術で結界の中に囚われ身動きが取れなくなった。

悔しさに歯噛みする神将たちを尻目に、絶望のあまり立ち尽くす昌浩の心の臓を抜き取り、天珠に変え、それを天に掲げた。

すると、桜が竜巻に乗り、視界全てを覆い隠した。

それが晴れた後、どことも知れぬ場所にいた。

「・・・おじい様が、敵……」

重い溜息と共に唸る成親は藤花に視線を投じる。

「大丈夫ですか藤花殿」

今にも倒れそうな顔をしている藤花は何とか気力で己を保っているようだ。

本当ならばすぐ駆けていきたいだろうに。

だが、立場がそれを許さない。

「昌浩の遺体は?」

「わからない・・・」

魂のない器は放っておけば朽ち果てる。

だが、昌浩は天狐を引くものであり、その体だけでも悪用されれば風音の時のように恐ろしい事になるだろう。

そう思い、何とか見知った道に抜けた後、再び戦闘を覚悟に吉野への道を引き返した。

だが、そこには昌浩の遺体はなく、件や晴明の姿もなかった。

ただ、血にまみれた花弁と、幹があっただけだ。

「謄・・・あれの護り役は如何しているのだろう」

ふと、思い出したかのように呟く昌親に勾陣は目を伏せる。

「勾陣?」

「しばらくそっとしておいてやれ」

一番深く傷ついているのはあれだろうから









――どうして…どうして、じい様……

悲痛な叫びが小さな世界に反響する。

痛い、苦しい。

灼熱の焔がこの身を灼く。

蒼白い天狐の焔が人の心を、魂を灼く。

絶望に染まった魂を、心を燃やして行く。

《憎くはないか・・・》

どうして憎いなどと思う。

絶望に覆われた心はただ呟く。

悍ましい歌が聞こえる

《一つ・・・ひか・・・の・・・がんば・・・》

痛い、苦しい。

魂を、心を灼く炎が熱い

《あれは、お前たちの心を裏切った。お前を殺め、天珠を抉り出したあの男が》

裏切った……

《六つ…むか・・・のひ…とぼ…》

《そう、その怖ろしさを一番知っているはずのあの男が件と手を組んだ》

件と・・・

《九つ…こよ…こ・・・こがれ…》

昏い闇に染まってゆく魂を、力を見ながらそれは嗤う。

《十で・・・と……と…か…はて…た》

《さあ、わが手を取れ。さすれば貴様の望みを叶えてやろうぞ!》

血にまみれ、天に掲げられた天珠は昏く染まった青白い光を放つ。

そして、神に祭り上げし呪歌は歪められ捻じ曲げられ歪に完成する。






あとがき

今回、むっちゃくちゃシリアス&グロで申し訳ございません・・・

原作がかなりシリアスで、全巻で一二三歌が出たのもあり、恐ろしくお化け屋敷のようにと思っていたらこんなのになりました…

お叱りが来そうな気がします…

今回載せさせていただいた一二三歌≪数え歌≫は漢字でやると

日影の彼岸花

二人の花盛り

晦日に水流れ

宵まで明々と

急いで橋潜り

迎えの灯が点す

流れて七つ待ち

八重太刀豆を摘む

今宵恋焦がれ

到頭枯れ果てた



だそうで、恐い物です。

怖いので最後に、古来から伝わる鎮魂の祝詞。これを唱えれば万の厄災が幸に転じるのだそうです。

ひふみよいなむやこともちろらね

しきるゆゐつわぬそをたわくめか

うおゑにさりへてのますあせえほれけ



では。


2012/07/27
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