捧げ物

□オイデヤオイデ
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――オイデ、コチラヘオイデ


祖父の手に引かれ、桜の並木道を歩く。

どこへ向かっているのだろうか。

引かれるまま歩いていると不意に右側の茂みから真っ白な手がゆらゆらと動いているのが見えた。

それはおいでおいでをしているように見える。

なんだろうと不思議に思い、祖父の手を離しそちらへ近づく。

祖父が何か言っていたが風音にかき消される。

ふと、気が付くと大きな一本の桜がある丘に一人で立っていた。

急に怖くなって泣き始める。

喉がかれて痛くなってきた頃、そっと自分の頭をなでる手に気が付いた。

自分より少し上の少女だった。

色白の肌に、白銀の髪が揺れる。

その少女は見て、という風に周りをゆっくりと見渡す。

すると、自分たちの周りに結界が張られており、その外に黒いもやもやとしたものが漂っている。

そして、待っている花弁の色がう李ではなく紫色の花弁だと気づく。

恐くなって、少女の黒い着物の裾をつかむ。

大丈夫だよとあやすように背を叩き、その反対の手で印を組む。

そして、大きく息を吸い込むと凛とした声がそう大きくないにもかかわらず響き渡る。

「この手は我が手にあらず、この息は我が息にあらず、この声は我が声にあらず…」

それは、聞いた事のない言葉だった。

けど、どこかこれであの怖いものは消えるという思いがあった。

「すべては高天原におわす!神の手、神の息、神の声!」

最後に柏手が響く。

すると、すべてが霧が晴れるかのように消え去り、あとには普通の桜並木があるのみだった。

「……死者の遺恨が、淡い紫色の穢れの花をつける」

その言葉は難しくって理解できなかった。

「尸(かばね)を招く櫻――尸櫻」

そして、こちらを振り返ったその顔は逆光で良く見えなかったがとてもきれいだった。

「また、会えるよ」

瞬きをすると彼女は消えていた。

それと同時に全ての音が戻った。
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